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ヒューマン・ライツ・ウオッチが、性別変更を望む人に断種を強要する現行法を「早急に」改正すべきだと訴える声明を発表しました
日本でトランスジェンダーが法律上の性別変更(戸籍の記載の変更)を希望する場合、性同一性障害特例法によって生殖腺を除去する手術を受けなければいけない、すなわち不妊手術(断種)が要件とされていることについて、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights Watch)は3月20日、「早急に」法律を改正を行うべきだとする声明を発表しました。
2004年に施行された性同一性障害特例法によれば、法律上の性別変更を求めるトランスジェンダーは、精神科医から「性同一性障害」の診断を受けるほか、独身であること、未成年の子どもがいないこと(最初は単に子どもがいないこと、でしたが、のちに改正されました)、など、厳しい要件を満たさなければなりません。この要件には生殖機能を持たないことも含まれるため、実質的にはほとんどの申請者に不妊手術を求める形となっています。
ヒューマン・ライツ・ウオッチ日本代表の土井香苗氏は声明で「日本政府はトランスジェンダーの人々の権利を尊重し、法律上の認定の要件として手術を強制することをやめるべきだ」「同法は、性自認をいわゆる『精神疾患』とする、時代遅れの前提に基づいており、早急な改正が必要」だと述べています。
この声明は、日本国内に住むトランスジェンダー48人に加えて弁護士、医療関係者、その他の専門家へのインタビューを含めた報告書『高すぎるハードル:日本の法律上の性別認定制度におけるトランスジェンダーへの人権侵害』と共に公開されました。
あるトランス男性は「(手術は)本当はしたくないですけど、日本で結婚するためにはそれが要件だからしなきゃいけない。強要されているような感じ。ひどい話です」と語りました。
東京在住のトランス女性は「あまりにも壁が高すぎる。ただ生きているだけなのに、どうしてこんなに精神や経済のリスクを背負わなければならないのか」と語りました。
報告書は、日本の法律で定められている手続きが「トランスジェンダーというアイデンティティを精神医学的状態と捉える時代遅れで侮辱的な考え方に基づいており、法律上の性別認定(戸籍記載変更)を求めるトランスジェンダーの人々に対して、長期・高額で、侵襲的かつ不可逆的な医療処置を要求している」と指摘しています。
医療専門家は各国政府に対し、法律上の性別認定から医療要件を除くよう求めています。
世界保健機関(WHO)は、最新版の『国際疾病分類(ICD-11)』において「精神障害」のセクションから「性同一性障害」を削除しました。「性同一性障害」を「性別不合(gender incongruence)」に変更し、診断コードを精神疾患の章からセクシュアル・ヘルスの章に移動させています。
一方、最高裁判所第二小法廷は2019年1月、断種を望まないトランス男性の訴えについて、断種要件が合憲であるとの下級審の判断を支持し、特別抗告を棄却しました。しかし判決文は「その意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できない」との指摘も行っています。4人の裁判官のうち2人は、補足意見で「性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある」と述べ、トランスジェンダーの人びとにとって「性別の取扱いの変更の審判を受けられることは、切実ともいうべき重要な法的利益である」と判示しました。
「最高裁の判断は、性同一性障害者特例法に重大な疑義を投げかけた」と、土井代表は述べました。「日本政府は同法を改正して、国際人権法上の義務と国際的な医学規範に適合させるべきである」
参考記事:
性別変更に不妊手術求める日本は「法改正を」、人権団体HRW(AFPBB)