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性的マイノリティの高校生の約1/3が自傷を経験していることが明らかになりました
三重県の高校生およそ1万人を対象にジェンダーやセクシュアリティに関する調査が行われ、LGBTの生徒のうち約半数が周囲の偏見を感じており、約6割がいじめ被害に遭ったことがあり、3人に1人が自傷行為を経験するなど、深刻な実態が浮き彫りになりました。
この調査は昨年10月から12月にかけて、宝塚大学日高庸晴教授と三重県男女共同参画センターの共同研究として行われました。三重県の県立高校の2年生を対象に無記名の調査用紙を配布し、およそ1万人が回答しました。このうち、レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーであると回答した(LGBTと考えられる)生徒が281人、自分は男/女のいずれかではないと感じているXジェンダーの生徒が508人、性的指向や性自認が定まっていないクエスチョニングの生徒が214人に上り、合わせておよそ1000人、全体の約10%の生徒が性的マイノリティとなりました。
性的マイノリティの生徒のうち、学校生活で「安心できる場所がある」と答えた生徒は37%、「いざという時に力になってくれる友人や先生がいる」と答えた生徒は47%で、いずれもそのほかの生徒の割合をおよそ20ポイント下回りました。また、性的マイノリティの生徒のうち、「周りの人の多くは性的少数者に偏見を持っていると思う」と回答した生徒は48%、オカマ・ホモ・レズなどと言われたり、無理やり服を脱がされたり、持ち物を隠されたり、仲間外れにされたりするなど、何かしらの「いじめの被害に遭ったことがある」と回答した生徒は61.4%、「わざと自分の体を傷つけたこと」があると答えた生徒は32%で、そのほかの生徒の割合をおよそ20ポイント上回りました。
性的マイノリティの生徒は、学校やふだんの生活で心の不安を抱えることが多く、安心して学校生活を送れず、自己肯定感(セルフエスティーム)が低くなりがちであることが明らかになりました。
今回の調査結果を受け、日高教授は「不安や悩みの背景には、LGBTに関してネガティブな情報があふれていることがある。授業でLGBTについてきちんと教えたり、悩みを相談できたりする環境作りが必要だ」「今までの国内研究では明らかにされていなかった実態を把握できた。三重県だけの問題と捉えるのではなく、今回の結果をそれぞれの自治体に置き換えて取り組んでもらえるよう、働きかけていきたい」と語っています。
文部科学省は2015年に性的マイノリティの児童・生徒へのきめ細かな対応を求める通知を出していますが、日高教授は「思春期は性的指向や性自認の揺らぎもある。教員が全体の概念を正しく理解しなければ、生徒の悩みを受け止めることはできない」とし、さらなる教員研修の必要性を指摘しています。
また、三重県教育委員会人権教育課は「性的マイノリティが過ごしやすい学校環境づくりや人権学習の充実をより進めていきたい」としています。
NHKの記事では、東海地方の20歳のレズビアンの女性の声が紹介されていました。
彼女は高校生の頃、学校で2人で騒ぐ男子生徒たちに向かって教師が「お前らホモかよ」と言ったり、教科書に「思春期には異性を好きになる」とだけ書かれ、LGBTについて触れられていなかったことなどから、「正しいことを言う先生からも、教科書からも否定された。自分はよくない存在で早く死なないといけないと思っていた」と語っています。当時の日記やメモには、「生きてる価値がわからない」「苦しくても言える相手がいない」といった言葉が記されているそうです。
彼女は「小学校から高校までの間に、1人の先生でいいので、異性を好きにならない人生もあると教えてくれていたなら、気持ちが楽になり自分を否定することもなかったのではないか」とも語っています。
今回の調査を実施し、3月19日に報告発表も行った宝塚大学看護学部日高庸晴教授は、京都大学大学院医学研究科に在籍していた頃(1990年代末)から、ゲイ/バイセクシュアル男性のメンタルヘルスやセクシュアルヘルスに関する大規模なアンケート調査を実施してきており、例えばゲイ/バイセクシュアル男性の自殺企図率はストレート男性の約6倍にも上るといった、今日よく参照されるデータの基となるたいへん重要な研究を多数、手がけてきた方です(日高氏の業績についてはこちらをご覧ください)。今回の調査もまた、そうした性的マイノリティに関する重要な調査・研究のリストの一つに加えられることになるでしょう。
参考記事:
LGBTの高校生3人に1人「わざと体を傷つけた経験ある」(NHK)
性的少数者の高校生「自傷を経験」3割 1万人調査(朝日新聞)
高校生1万人調査 LGBTの60%、いじめ被害を経験(教育新聞)