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愛知県公安委員会が、同性パートナーを殺害された方に対し、遺族給付金の支給を認めない決定を下しました

 名古屋市中村区の住宅で2014年、住人の男性Aさんが殺害された事件をめぐり、Aさんと20年も共に暮らしていた同性のパートナー・Bさんが、国の犯罪被害給付制度に基づき、配偶者と同じ扱いを求めて遺族給付金の申請を行っていましたが、愛知県公安委員会は12月22日付で不支給の決定を下しました。Bさんは決定を不服として国家公安委員会に改めて審査を求める方針です。

 事件は2014年12月、Bさんが被害者のAさんと暮らしていた名古屋市の自宅で発生しました。Bさんと一時交際していたCが、Aさんの胸を包丁で刺して殺害しました。名古屋地裁は「受刑者が男性を独り占めしたいと考え、夫婦同然の関係にあった被害者を刺殺した」と指摘、殺人罪などで懲役14年の判決を言い渡し、確定しました。
 
 Bさんの代理人弁護士によると、BさんはAさんと20年余り同居し、給料をAさんの口座に入金、家事や家計管理はAさんが担うなど、生活は一体でした。Bさんは事件のショックで自宅に住めなくなるなど精神的、経済的に大きな損失を受けたと語っています。国の犯罪被害給付制度※は、婚姻関係にある配偶者のほか、内縁関係の相手も遺族の対象に含めています。代理人弁護士は「今回のケースは同性どうしでも事実上の内縁関係であり、給付の条件に当てはまる」と主張していました。

※犯罪被害給付制度:犯罪で亡くなった被害者の遺族や負傷した被害者本人を支援するため、国が一時金を支給する制度。申請者が犯罪を知った時から2年以内か、犯罪の発生から7年以内に申請する必要があり、各都道府県の公安委員会が支給の可否や額を決めます。遺族給付金の場合、死亡者の第一遺族=配偶者(事実婚や内縁関係を含む)と子、父母、孫、祖父母、きょうだいが対象で、年齢や収入、遺族との関係などによって320万~2964万円が支払われます。2015年度の申請は256件で、支給決定は242件(過年度申請分含む)、平均給付額は510万円です。

 殺人事件の被害者と同性パートナー関係にあった方が「配偶者」として遺族給付金の申請をしたことに、当事者団体や専門家は「国は時代の流れに即した対応を」と訴えていました。
 同性カップルの権利をめぐっては、東京都渋谷区で2015年、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認めて証明書を発行する条例が成立し、社会的な認知が広がりつつある一方、刑事司法分野の取り組みに遅れを指摘する声も上がっています。
 LGBT法連合会によると、受刑者に同性パートナーが面会を求めたところ、法律上の夫婦や親族でないことを理由に「更生につながらない」として拒否された事例もあるといいます。同団体の神谷悠一事務局長は今回の申請を「当事者が声を上げることの意義は大きい。行政は柔軟な対応を」と語っていました。
 犯罪被害者支援に詳しい諸沢英道・元常磐大学長は「欧米では法的な家族関係にしばられず、共同生活の実態を重視して給付するのが一般的。国内の制度運用も時代の流れを考慮すべき時期にきている」と語りました。

 犯罪被害給付制度を担当する警察庁は、今回の申請を「個別の事案については答えられない」とする一方、「同性愛の同居者は制度上の遺族、配偶者には入らず、事実上の婚姻関係にあったとも認められないと考えられる」としていました。
 そして今回、愛知県公安委員会は不支給の決定を下しました。中日新聞の取材に対し、愛知県公安委員会は「個別の案件には答えられない」と、給付制度で調査事務などを担う愛知県警住民サービス課の担当者は「個別案件は答えない」「判例では内縁関係は男女間になっている」と述べました。

 代理人弁護士は不支給決定を「同性パートナーでも犯罪被害の悲しみや損失は変わらない。異性であれば支給されていたはずで不当な決定だ。被害者と一緒に暮らした遺族を支えるという制度の目的に照らせば、同性カップルを排除する理由は全くない」と批判しています。
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「民間企業や政治の世界ではLGBTへの認識が広まりつつある。国家公安委員会が審査する場合、実態をよく見て犯罪の被害関係者に寄り添ってほしい」と語りました。

 不支給決定の報道を受けて、SNS上では「20年一緒に過ごした伴侶へのあまりの仕打ち」「こういうの、やっぱりしんどいなあー」「理不尽にもほどがある」「ただ同性だというだけで対応に差があるのは不合理このうえない」「個別の案件でなくともよいのです。同性パートナーを事実婚と同様には認めないというその「一般解」についてその理を説明してください」「事実婚のパートナーなら認定する規定である以上、同性かどうかは関係なく、事実上の婚姻関係があるとは認定できなかったという論理じゃないと、この判断はおかしい」「同性愛者が汗水流して働いて納めた税金が自分たちには使われず異性愛者のためだけに使われるのは、どう考えても不公平じゃないか」など、たくさんの声が上がっています。
 異性愛者と同じように働き、税金を納めている同性愛者は、どんなに長くパートナーと共に暮らし、事実上結婚しているのと変わらない関係を築いてきたとしても、ただパートナーが同性であるというだけで、結婚が認められず、税制上の様々な不利益を被り、相続も認められず、たとえパートナーが突然殺されるという悲劇に見舞われたとしても、遺族年金どころか、遺族給付金すら「同性愛は内縁関係じゃない」と支給を拒否されるという、傷口に塩を塗るような仕打ちを受けるのです…これが日本の同性愛者が置かれている現実です。
 
 2005年、まだ同性婚が認められていなかった頃のニュージャージー州で、20年以上にわたって市民の安全を守ってきた有能な女性刑事・ローレルは、末期ガンで余命半年だと宣告され、パートナーの女性・ステイシーが遺族年金を受け取り、今の家に住み続けられるよう、郡政委員会に申請します。「私は何も特別な権利を求めているわけではありません。ただ『平等』を求めているだけなんです」。しかし、ホモフォビックな男たちで固められている郡政委員会は、法的に認められないと突っぱねます。長年地域に貢献してきた英雄的存在であるローレルに対し、ただパートナーが同性であるというだけで、愛する人に何も遺すことを許さないとする無情な判決に対し、ローレルの同僚たちが立ち上がりました。ずっと仕事上の相棒として信頼し合ってきた仲間がガンで死んでいこうとする時に、パートナーに何も遺せない、希望も何もないなんて、あまりにもひどいじゃないか、そういう人間として当たり前の「情」が、彼らを動かしたのです。同僚たちがアライ(支援者)として奮闘し、立ちはだかる壁を少しずつ突き崩し、郡政委員たちも認めざるをえなくなり…。これは『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』という映画でも描かれた実話です。今回の件を考える際、とても参考になるはずです。DVDレンタルもされていますので、ぜひ。
 
 
 
参考記事:
同性愛男性、遺族給付を申請 パートナー殺され「夫婦同然だった」(東京新聞)
同性パートナーへの遺族給付金 支給しない決定(NHK)
同性パートナーの申請認めず 遺族給付で、愛知公安委(共同通信)
同性パートナーに遺族給付金不支給 愛知県公安委、配偶者と認めず(中日新聞)


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