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日本学術会議が性的マイノリティ差別を解消する法律の制定や「結婚の平等」を提言しました

 9月29日、日本学術会議※法学委員会の社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会が「性的マイノリティの権利保障を目指して―婚姻・教育・労働を中心に―」という提言を行いました。 

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された「日本の科学者の内外に対する代表機関」(いわば学術界における最高の権威)です。科学者の選挙により選出された210人の会員と約2000人の連携会員によって職務が担われています。

 社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会は2015年2月に発足しました。奈良女子大学副学長・研究院生活環境科学系教授の三成美保氏を委員長とし、性的マイノリティの課題に詳しい早稲田大学の棚村政行教授や高岡法科大学の谷口洋幸教授らもメンバーとなり、定期的に話し合いが行われ、また、3回にわたる公開シンポジウムも開催されてきました。そしてこの間の議論を総括した提言として、今回の「性的マイノリティの権利保障を目指して―婚姻・教育・労働を中心に―」が発表されました。
 
 提言では、「学校・職場・地域 が一体となって性的マイノリティに対する偏見と差別を取り除き、性的マイノリティに対する理解を深めて「共生社会」を築くことが、国民が果たすべき課題である」として、立法府・政府に対し、差別解消のための根拠法の制定と包括的な法政策の策定を求め、関連する法として、1.婚姻の性中立化をはかること(結婚の平等)、2.「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の名称変更と要件緩和を行うこと(現状、結婚していないこと、未成年の子がいないこと、などの厳しい要件が課されています)、3.個人情報保護法の不利益取扱い禁止規定に性的マイノリティの権利を導入し、「要配慮個人情報」に「性的指向と性自認」の文言を追加すること(性的指向や性自認についての情報は要配慮であると定めることで、アウティング防止やプライバシー保護の強化につながります)、4.ハラスメント言動の防止について、男女雇用機会均等法のセクシュアル・ハラスメント指針を人事院規則と同内容とすること(職場におけるLGBTへの差別的言動を明確にセクハラとみなすことで、すべての企業にLGBT差別禁止を徹底できるようになります)の制定を求めています。
 加えて、教育における権利保障の課題を達成するため、性的マイノリティの「学ぶ権利」を包括的に保障するためのガイドラインの策定、教科書の改訂や学習指導要領の見直しによって「性の多様性」に関する教育を充実させることなども求めています。そして、雇用・労働に関する権利保障の課題を達成するため、厚労省に性的マイノリティの権利保障を目的としたガイドラインの策定を求め、各企業に理解増進・差別禁止のための取組みを速やかに実践し、福利厚生についても配慮することなどを求めています。

 「婚姻の性中立化に向けた民法改正の必要性」の章についてもう少し詳しくご紹介します。
 まず、「婚姻の意義の変容」として、「今日、既に法制度上、婚姻と生殖・養育との不可分の結合関係は失われ、婚姻法は主として婚姻当事者の個人的、人格的利益の保護を目的とするものになっている。したがって、個人の利益を否定するに足りる強力な国家的ないし社会的利益が存しない限り、個人の婚姻の自由を制約することは許されない」とされています。これは、「子どもをもうけない同性カップルに結婚の権利など必要ない」といった見方に対する強力な反論になっています。
 そして、「日本家族<社会と法>学会の提案を踏まえて」という章が、とても重要な意義を帯びています。2016年11月に開催された日本家族<社会と法>学会第33回学術大会シンポジウム「家族法改正〜その課題と立法提案」において「異性又は同性の二人の者は、婚姻をすることができる」という規定の新設が提案されたそうです。「個人が生活を共同してゆく形態には様々なものがあり、性別にとらわれることなく共同生活に入る当事者に対して対等平等な法的保護を提供する時代となっているという認識に立つ。そして、家族生活を形成するに当たって、人には性別にとらわれずに相手を選択する自由があり、その自由は可能な限り保障されるべきであることから、相手として、異性を選択する、同性を選択する、異性か同性か分からないけれども共同生活を営む意思のある者を選択するなど、選択の自由は保障されなければならないという問題意識から、婚姻関係の多様性を認め、性中立的な規定を目指すものである。したがって、婚姻の当事者を男女に限定する必要はなく、婚姻の自由を尊重し、一人一人を平等に扱うという観点から、同性同士にも婚姻を認めるのである」と述べられています。憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意にのみ基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定していますが、この提言では「上記学会の提案は現行憲法に反するものではない」としています。その理由について、こう述べられています。「同条項の「両性」「夫婦」は、用語としては男女をさす。しかし、1946年11月の憲法制定当時、アメリカ精神医学会は同性愛を「精神障害」の1つとしており、同性愛者の共同生活や婚姻は想定外であった。24条1項の立法趣旨は、家制度の下、当事者の自由な合意で婚姻できなかったことを克服し、家制度から婚姻を解放することにあったことから、同条項は同性による婚姻を制約するものではないと解することができる」
 これまで、憲法24条をめぐっては、「同性婚を認めるためには憲法を改正しなくてはならない」とか、「両性は両人(結婚する二人)という意味だ」という解釈など、様々な見方がありましたが、この提言では「憲法24条の「両性」は男女という意味ではあるが、同性の結婚を制限するものには当たらない」ということが論理的にも明確に説明されています。日本学術会議が「憲法に照らしても同性婚は認められるべきだ」と見なしたわけですから、今後、憲法24条について議論する際、同性婚承認への有力な根拠として参照できますし、この見方がスタンダードになっていくことが期待されます。そういう意味でも(あらゆる意味で)たいへん重要な意義を持つ提言であると言えるでしょう。

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