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人事院規則が改正され、国家公務員についてはLGBT差別がセクハラとみなされることになりました
国家公務員の人事や処遇などを取り扱う人事院が2016年12月1日、人事院規則10−10(セクシュアルハラスメントの防止等)の運用についての一部改正について発出し、国家公務員におけるセクシュアルハラスメントに「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動」が含まれることを明らかにしました。また、第6条に基づく指針を改正し、「性的指向や性自認をからかいやいじめの対象とすること」が例示されたこと等が確認されました。
LGBT法連合会は、この改正により、「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動」が、従来のセクシュアルハラスメントと同様に、⑴人事院は各省庁の長が防止の為に実施する措置に関する調整、指導及び助言に当たる、⑵各省庁の長は「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動」について防止及び排除に必要な措置を講じる、⑶各職員自身が注意するとともに、職場の監督者が「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動」の防止及び排除に努めるとともに、発生時には迅速かつ適切に対処する、⑷各省庁の長が防止に必要な研修を行う、⑸各省庁の長が「苦情相談への対応」を行う体制を設け相談員を配置する、等がそれぞれ実施されるものと受けとめています。また、同規則の指針に基づき、酒席の場等の職場外においても注意が求められるとともに、行政サービスの相手方等の職員以外に対しても注意が求められること、またこのような言動が様態によっては懲戒処分となる場合があることも、従来のセクシュアルハラスメント防止措置と同様であると受けとめています。
特筆すべきは、苦情相談に当たる職員を「同性」から「希望する性」に変更するなど、性自認に関して困難を有する当事者も視野に入れた対応となったことです。
一方、昨年5月のニュース「セクハラ指針が改正され、LGBTに対する性的な言動もセクハラと明記されることになりました」でもお伝えしたように、民間企業・団体におけるセクシュアルハラスメント防止を定めた男女雇用機会均等法のいわゆる「セクハラ指針」の一部改正が行われ、1月1日から施行されました。
この改正では「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」とされましたが、LGBTもセクハラの対象であるという、ある意味当たり前のことが明記されたにとどまり、職場でのLGBT差別全般をセクハラとみなして対応を求めるもの(事業主が職場でLGBT差別が行われないよう周知することがコンプライアンス上も必須)とまでは言えません。
弁護士の原島有史氏は「同指針の改正それ自体の効果は、極めて限定的なものと考えざるを得ません」と指摘しています。ただし、「このような行為の禁止は、現行の法令からも導き出すことが可能です。性的少数者であることを理由に、いじめや嫌がらせをすることは、当事者の人格権を著しく傷付けるものですので、当然に損害賠償請求の対象になります」とのことです。
LGBT法連合会は「今回の国家公務員分野におけるセクシュアルハラスメントに関する改正を、上記のような経緯も踏まえた、多くの当事者や支援者による尽力の結果であると捉え、性的指向・性自認に関する差別をなくす貴重な一歩として喜びを分かちあいたい。一方で、民間企業・団体や地方自治体においては依然対応されていないことを憂慮し、速やかに対応を求めるものである。引き続き、同規則が実効的に職場で機能するかを注視するとともに、性的指向・性自認に関する様々な困難や差別が依然として解消されず、自死やアウティングなどに関する報道等も後を絶たないことから、1日も早くこうした差別をなくすための実効性ある法整備を求めるものである」としています。
民間に先んじて国家公務員についてLGBT差別を禁じる措置がとられたかたちですが、いずれは民間の企業・団体においても同様の抑止規定が設けられる(コンプライアンスとして企業の対応が必須となる)ことでしょう。すでにCSRやダイバーシティ推進の一環としてLGBT差別を禁じるような施策に取り組まれている企業のみなさんに敬意を表しつつ、今後も多くの企業のみなさんがLGBT施策に取り組まれることを願うものです。
参考記事:
【声明】「性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動」が 人事院規則10−10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)に含まれたことについて(LGBT法連合会)
「LGBTも対象」国の改正セクハラ指針適用…弁護士「大きな進歩だが効果は限定的」(弁護士ドットコムニュース)