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模索が進む企業のトランスジェンダー対応

戸籍上の性別と見た目の性別が異なる場合もあるトランスジェンダーの従業員が職場でトイレを使用する際の困難を解消するため、職場に性別や性自認に関係なく使えるトイレを設置することが求められています。  

昨年、渋谷区や世田谷区で同性パートナーシップ証明制度が施行されたこともあり、LGBTへの社会的な関心が高まり、企業の取組みも急速に進んでいます。衛生陶器のメーカーには建築関係者や企業の人事部からの問い合わせが多いといいます。    

LIXILは昨年、NPO法人虹色ダイバーシティと共同で、この問題に関する初の本格的な調査を実施しました。その結果、トランスジェンダーの64.9%が職場(や学校)のトイレの利用で困ったりストレスを感じており、トイレを我慢するあまりぼうこう炎などの排せつ障害を患うようになった人も25.4%に上るということが明らかになりました。  

TOTOはこの9月14日、大阪市で「公共トイレにおけるLGBT配慮」をテーマにセミナーを開きました。「並んでいるときの周囲の目が気になる」「警備員に注意されたことがある」といった当事者の悩みや、男女共用トイレを増やすといった対処法に、建築関係者ら十数人が熱心に聞き入ったそうです。セミナーに参加した設計事務所の男性は「依頼者から要望を受けたことがあり、前から関心があった」と語ります。  都内の広告会社に勤めるトランスジェンダー女性は「我慢しなければならないことも多く、つらかった」と語ります。社内の女性トイレは入りにくく、性別移行後もしばらくは人が少ない駐車場のトイレを使っていたそうです。  

また、化粧品の販売をしているトランスジェンダー女性は「帽子で顔を隠しトイレに行ったこともある」と語ります。職場のある百貨店は戸籍上の性別に基づくトイレを使わなければならず、男女共用トイレもないそうです。  

車いすの人などのために設置された多目的トイレなら問題ないように思われがちですが、入り口で男女別に分かれているケースもあり、また「車いすの人に悪い」と使用をためらう人も多いそうです。「使用後ににらまれたことがある」という人もいます。  

また昨年、経済産業省のトランスジェンダーの職員がトイレ利用などで差別的な処遇を受けたとして損害賠償を求める訴訟を起こしました。  

こうした声を受け、トランスジェンダーに配慮したトイレを用意する自治体も出てきました。  

大阪市の淀川区役所は2014年、各フロアに2つある車いす用トイレの一方に、性の多様性の象徴であるレインボーカラーのマークとともに「どなたでもご利用いただけます」との文言を掲示しました。東京の渋谷区役所は庁舎建て替えに伴い、仮庁舎の多目的トイレにレインボーカラーの人を描いたピクトグラム(絵文字)を掲示します。  今年9月には、現型ディスカッション企業「がちゆん」と沖縄タイムス社による主権者教育イベント「夏の政治キャンプ2016」に参加した学生が「LGBT専用のトイレを設けてほしい」との請願書を沖縄県議会議長に提出し、ニュースになりました。  

民間施設では、ホテルグランヴィア京都(京都市)が昨年10月からロビー階のトイレで、全日本空輸は今年7月から羽田空港にある自社のラウンジで(成田や伊丹も対応予定)、それぞれ同様の取組みを始めています。  

ただ、こうした対応への当事者たちの反応は一様ではありません。「うれしい」と喜ぶ声もある一方で、「LGBT専用のトイレ」の場合、周囲にトランスジェンダーであることを明らかにしていない人のアウティング(意図しない形でのカミングアウト)にもなりかねない、という懸念の声も上がっています。渋谷区役所の多目的トイレについては、右半身が男性、左半身が女性の形をした虹色のピクトグラムを掲示してトランスジェンダーへの配慮を示していますが、「すてきなデザイン」「さすが渋谷区」と評価する声の一方で、「謎の生物(キメラ)感が半端ない」「マジョリティ(多数派)目線になってしまっている」という否定的な声も上がりました。  

明確な答えがない問題だけに、どこも対応は手探りの段階です。今年1月に同性パートナーの登録制度を導入して配偶者と同等の扱いにするなどLGBT施策に力を入れている日本IBMには、会社が把握しているだけでトランスジェンダーの社員が4人います。昨年の社屋改装の際、全フロアに男女共用の多目的トイレを用意しましたが、「必要としている人みんなが気兼ねなく使えるように」と、あえてレインボーカラーのピクトグラムは使わなかったそうです。  

誰もが納得するような正解のない難しい問題ではありますが、それでも答えを模索しようとする動きが出ています。  

香川県の当事者団体「PROUD」は、「どんな性別でも使えるトイレマーク」を公募し、昨年末に発表しました。最優秀に選ばれたのは、トランスジェンダーだけでなく多様な人々を包摂するデザインでした(詳しくはこちら
NPO法人ピープルデザイン研究所(東京・渋谷)は、2014年から渋谷ヒカリエで「超福祉展」と題した展示会を開催していますが、今年はこのイベントの一環として、性的少数者も含めたすべての人が使いやすいトイレのアイデアを募るデザインコンペを開催。トランスジェンダーも審査に加わる形で10月中旬に優秀作品が決定し、11/8から展示されます(詳しくはこちら)。審査員を務める建築家の岡部修三さんは「難しい問題だが、それでも話題にし続けることが重要。今回のコンペがこの問題を広く考えるきっかけになってほしい」と語ります。    

トイレ以外にも更衣室や健康診断など、トランスジェンダーが職場で抱える悩みはさまざまあります。多様性を受け入れる社会づくりは、すべての人にとって暮らしやすい社会につながるはずです。

 

参考:LGBTトイレ、手探り自治体など絵文字掲示(日経電子版)

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