GLOSSARY

LGBTQ用語解説

性同一性障害特例法(GID特例法)

 正式名称は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」です。
 性同一性障害者のうち特定の要件を満たす者について、家庭裁判所の審判により、法令上の性別の取扱いと、戸籍上の性別記載を変更できるようにする法律です。
 2003年7月10日に国会で成立し、2004年7月16日から施行されました。

趣旨

「性同一性障害は、生物学的な性と性の自己意識が一致しない疾患であり、性同一性障害を有する者は、諸外国の統計等から推測し、おおよそ男性三万人に一人、女性十万人に一人の割合で存在するとも言われております。
 性同一性障害については、我が国では、日本精神神経学会がまとめたガイドラインに基づき診断と治療が行われており、性別適合手術も医学的かつ法的に適正な治療として実施されるようになっているほか、性同一性障害を理由とする名の変更もその多くが家庭裁判所により許可されているのに対して、戸籍の訂正手続による戸籍の続柄の記載の変更はほとんどが不許可となっております。そのようなことなどから、性同一性障害者は社会生活上様々な問題を抱えている状況にあり、その治療の効果を高め、社会的に不利益を解消するためにも、立法による対応を求める議論が高まっているところであります。
 本法律案は、以上のような性同一性障害者が置かれている状況にかんがみ、性同一性障害者について法令上の性別の取扱いの特例を定めようとするものであります」
(2003年7月2日、参議院本会議)


性同一性障害者の定義

 第二条において、以下のように定義されています。
「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう」

 出生時に割り当てられた性別と異なる性別であるとの「持続的な確信」を持っている(ジェンダーアイデンティティになっている)こと、それを二人以上の医師が診てそうだと診断されることが必要、ということです。生物学的に男性である人が一時的に「心は女性」などと言っても女性だとは認められないわけです。


性同一性障害特例法の要件

 第三条において、「家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる」として、5つの要件が設けられています。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺(せん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

 三の「未成年の子がいないこと」は、当初、単に「子がいないこと」でしたが、子どもがいる人は一生性別変更できないというのはあまりにひどいという当事者の訴えによって、2008年に改正されました。
 なお「子なし要件」があるのは日本だけです。

 
世界の潮流

 2012年以降、性別適合手術を受けなくても法的性別変更を承認する、さらには医師の診断書がなくても法的性別変更を承認する国が増えており(ご参考:性別変更をめぐる諸外国の法制度)、国際社会の潮流となっています。

 2019年、WHOが性同一性障害を「精神障害」の分類から除外しました。2022年発効の「国際疾病分類」改定版(ICD-11)において性同一性障害が「精神障害」の分類から除外され、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「Gender Incongruence(性別不合)」に変更されます。

 2020年、日本学術会議が「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定を提言しました
 性同一性障害特例法が「身体変更や生殖腺切除を法的性別変更の必須要件と定めており、2010年代から急速に進展した国連の人権基準や法改正の国際的動向に即していない」「「性同一性障害」という用語ももはや国際的に使われていない」として、「個人の性自認・ジェンダー表現を尊重する法整備は、トランスジェンダーだけでなく、すべての性的マイノリティの権利保障の基礎となる。そして、それは、ジェンダー抑圧構造により不利益を受けるあらゆる人びとの権利保障にもつながる」と述べられています。


要件の違憲性をめぐる裁判所の判断について

 4号要件(不妊化要件)をめぐり、岡山県のトランス男性・臼井崇来人さんが2016年、「体に著しいダメージを伴う手術を求めるのは自己決定権を保障した憲法に違反する」として不妊手術を受けずとも性別を男性に変更できるよう裁判所に申立てを行ないましたが、2019年1月23日、最高裁判所第2小法廷(三浦守裁判長)は、「現時点では憲法に違反しない」との初判断を示し、申し立てを退けました。一方で、4人の裁判官のうち2人が「手術は憲法で保障された身体を傷つけられない自由を制約する面があり、現時点では憲法に違反しないがその疑いがあることは否定できない。人格と個性の尊重の観点から社会で適切な対応がされることを望む」とする補足意見を述べました。要件の違憲性は「不断の検討を要する」とし、「現時点では」という条件付きで合憲と結論づけました。 

 2021年、静岡県のトランス男性・鈴木げんさんが同様に申立てを行ない、2023年10月12日、静岡家庭裁判所浜松支部は、生殖腺除去規定は憲法に違反しており無効だとする判断を示し、鈴木さんの戸籍上の性別の変更を認めました。

 2019年、トランス女性の咲さん(仮名)が、自身は性別適合手術を受けていないものの長年のホルモン治療で生殖能力が減退し、生殖の可能性は極めて低いため、不妊化要件を満たすと主張し、裁判所に法的性別変更を認めるよう申立てを行ないました。しかし、一審でも二審でも認められなかったため、最高裁に特別抗告を行ない、最高裁大法廷で審理されることになりました。
 同年10月25日、最高裁は4号要件(不妊化要件)について「手術を受けるか、戸籍上の性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫っている」などとして違憲であり無効だとする判断を示しました。15人の判事の全員一致の判断でした。ただし、5号要件(外観要件)については判断を高裁に差し戻し、判断しませんでした。(判決文の要旨はこちら

 この最高裁判断を受けて12月12日、法務省と厚労省は性同一性障害者の戸籍性変更に必要な医師の診断書に関し、現在の生殖腺機能に関する記載を不要にするとの通知を全国の自治体や関係学会に出しました(通知の書面はこちら

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