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「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟二審・福岡高裁判決の意義
「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟の二審(控訴審)判決が福岡高裁で下され、初めて憲法13条でも違憲だとされるなど、画期的で素晴らしい判決になりました。記者会見&報告集会の模様をレポートしながら、判決の意義についてお伝えします
【婚姻平等訴訟】福岡高裁「憲法13条・14条1項・24条2項に違反」 13条違反との判断は初とのニュースでもお伝えしたように、12月13日、「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟の二審(控訴審)判決が福岡高裁で下され、同性婚を認めていない民法などの規定は憲法13条、14条1項、24条2項に違反すると述べられました。憲法13条(幸福追求権)に反するとの判断は今回が初めてで、画期的な判決となりました。岡田健裁判長が判決を読み上げると、法廷内では拍手が起こり、原告含め多くの傍聴人が涙を流したそうです。お昼をはさんで午後には記者会見&報告集会が開催されましたので(YouTubeライブで配信されました)、そちらの模様をレポートしつつ、今回の判決の意義などをまとめます。
判決文
判決要旨と判決全文がCALL4に上がっています。
以下、判決要旨から抜粋します。
◎13条に違反するかどうかについて
「婚姻の成立及び維持のためには、他者からの介入を受けない自由が認められるだけでは足りず、婚姻が社会から法的な地位を認められ、婚姻に対し法的な保護が与えられることが不可欠である。したがって、憲法13条は、婚姻をするかどうかについての個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利をも認めていると解するべきであり、このような権利は同条が定める幸福追求権の内実のーつであるといえる。そして、上記のとおり、婚姻が人にとって重要かつ根源的な営みであり、尊重されるべきものであることに鑑みると、幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であるというべきである。
そして、性的指向は、出生前又は人生の初期に決定されるものであって、個々人が選択できるものではなく、自己の意思や精神医学的な方法によって変更されるととはないところ、互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有しているものと解される。
にもかかわらず、両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途(みち)を閉ざしてしまうことにほかならず、配偶者の相続権などの重要な法律上の効果も与えられないのであって、その制約の程度は重大である。
他方、婚姻は両当事者の自由な意思に完全に委ねられており、血縁集団の維持・存続といった目的からの介入は一切許されないことは、憲法24条から明らかである。同様に、婚姻ないし婚姻制度について宗教的な立場からの介入が許されないことも、同項から導かれるところであるほか、憲法20条(注:信教の自由、政教分離)の要請するところでもあると解される。そして、同性愛が疾患ないし障害であるとの考え方は、既に過去のものとして排斥されている。
そうすると、同性のカップルによる婚姻を制度として認めない根拠となってきた様々な要因は、現在の我が国においては、憲法に反するものとして、あるいは不合理なものとして、ことごとく退けられているといえ、本件諸規定による制約の必要性や合理性は見出し難い。したがって、本件諸規定のうち、異性婚のみを婚姻制度の対象とし、同性のカップルを婚姻制度の対象外としている部分は、異性を婚姻の対象とすることができず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない。」
◎14条1項に違反するかどうかについて
「(同性婚を認めない民法や戸籍法などの)本件諸規定は、男女のカップルによる婚姻には法的な地位や保護を与えるのに対し、同性のカップルについては、婚姻しこれに伴う法的な地位や保護を得ることを一切認めていないのであるから、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、合理的な根拠なく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するものである。」
◎24条に違反するかどうかについて
「憲法24条の主眼は、旧法下において、家制度の下、戸主が家族の婚姻に対する同意権を始めとする戸主権を有していたことや、妻の地位が夫に劣後するものとされていたことを一掃することにあり、制定の経緯からみて、同条が殊更に同性婚を禁止する趣旨で「両性」、「夫婦」の文言を採用したものであったとは認められない。したがって、同条は、同性婚を禁止するものではないというべきである。そして、憲法24条の主眼は上記のとおりであるから、同性婚を認めないことが直ちに同条1項に違反するとまでは解し難いものの、上記のとおり、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するものであるから、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反することは明らかである。」
◎本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するか
「上記1のとおり、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利は、憲法13条によって保障され、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であり、同性のカップルについて婚姻を認めていない本件諸規定は、同権利を侵害し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであるから、本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである。しかし、本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると、その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない。この事情を踏まえると、本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である。したがって、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するとはいえない。」
(※これまでの判決と同様、国家賠償までは認めないものの、立法府が同性婚の法制化をしないのなら国家賠償法上の責任を生じさせ得ると明言しています)
「結婚の自由をすべての人に」訴訟九州弁護団声明
CALL4に掲載された弁護団声明から、判決の意義と、結びの言葉をご紹介します。
◎本判決の意義
本判決は、婚姻の成立・維持について法制度による保護を受ける権利は憲法13条が認める幸福追求権の一つであるとし、同性カップルによる婚姻が制度上認められないことは憲法上許されず、それを制約することに合理性は見出しがたいとして、憲法13条、14条1項及び24条2項のいずれにも反することは明らかであると、明確に違憲の判断を下したものである。特に、本件諸規定が憲法の根本原理を規律する憲法13条に違反すると正面から判示したのは、地裁・高裁を通じ、本判決が初めてであり、高く評価できる。
さらに、本判決は、同性婚を認める場合には現行法とは異なる法制度を要するとの見解に対し、「法律上の親子関係の成否や戸籍への記載方法等の問題は、法令の解釈、立法措置等により解決を図ることが可能なもの」と指摘し、現行法において同性カップルの婚姻を認めないことの必要性や合理性を基礎付けるものではないとした。また、(自治体の)パートナーシップ制度や諸外国にみられる登録パートナーシップ制度等の別制度についても、「端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ」違憲の状態は解消されないと断言した。
本判決は、札幌高裁、東京高裁に続く3件目の高裁での違憲判決であり、これまでに判断を下したすべての高裁が、明確に違憲と判断している。そして、本判決により、全国で原告らが主張してきたすべての憲法上の論点について、裁判所が違憲と認める判断が出たことになる。
こうした一連の判決の流れは、司法が国会に対し立法での対応を強く要請しているものである。国会は、もはや現状を放置することが到底許されないことを強く自覚し、本件諸規定の改正に直ちに着手しなければならない。
◎最後に
「結婚の自由をすべての人に」訴訟の最初の一斉提訴(2019年2月14日)からの5年10ヶ月の間、各地の原告らは、自身の存立の根幹が揺るがされ続けている日々の苦しみを、勇気を振り絞って訴え続けてきた。また、原告ら以外にも多くの方々が、まさに人格的生存を危うくされているそれぞれの状況をつぶさに証言してくれたことも大きな力となって、ついに本訴訟において初となる憲法13条違反の判決へと結実したものである。
その背後には、今回の判決を知ることなく、自身が、あるいはパートナーが鬼籍に入られた数え切れない先達の存在があることを、私たちは忘れてはならない。
この宝ともいうべき大きな一歩を、決して後退させることがあってはならない。
関連訴訟の3つの高裁判決すべてにおいて、同性カップルを婚姻制度からはじき出す現行法制度が明確に違憲とされた事実を、国は、今こそ真摯に受け止め、直ちに婚姻の自由と平等を実現するため、法制化に着手すべきである。「(同性婚が認められないことによって様々な負担に苦しむ方々の)声を傍観することはいたしません」との石破首相の答弁(今月5日衆議院予算委員会)を曲げず、法制化を求める声を正面から受け止めることが求められている。
私たちは、結婚の自由と平等が完全に現実のものとなる日まで、みなさまと共に進み続ける。引き続き、さらなるご支援をいただきたい。
Marriage For All Japan代表理事コメント
Marriage For All Japanの公式Xに代表理事の方たちのコメントが掲載されました。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟について、本日、福岡高裁は、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定が同性カップルを婚姻制度の対象外としていることが「同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害」として憲法13条に違反し、また、「同性のカップルを差別的に取扱うもの」として憲法 14条1項にも違反し、さらには、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項にも違反するとの違憲判決を言い渡しました。
この判決は高等裁判所による3件目の判決となりますが、いずれの高等裁判所も違憲判決を言い渡したことになります。
本日の判決では、地方自治体やヨーロッパ諸国のパートナーシップ制度を導入・拡充しても不平等は解消されないと指摘したうえで、「同性のカップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない」とも指摘し、「異性婚と同じ法的な婚姻制度」を明確に求めています。
私たちは国会に対し、本日の判決を真摯に受け止め、立法に向けた準備に直ちに着手するよう求めます。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、各地の裁判所においても審理が続いています。これらの裁判所においても違憲判決が下されることを期待しています。
私たちマリフォーは、婚姻の平等を一刻も早く実現すべく、今後も「結婚の自由をすべての人に」訴訟のPR支援のほか、国会議員への働きかけや様々な世論喚起のための活動を継続していきます。
記者会見&報告集会
13日午後に開催された記者会見&報告集会の模様をお伝えします。(YouTubeライブでも配信されました)
弁護団の森あい弁護士と石井弁護士、3組の原告のうち、まさひろさん&こうすけさん、こうぞうさん&ゆうたさんのカップルが登壇しました。
初めに、今回の概要として、原告がどういう主張をしてきたか、今日の判決はどんなものだったかということが説明され、また、弁護団の声明が紹介されました。
原告のここさん&ミコさんのメッセージが紹介されました。短いながらも熱い思いのこもったメッセージでした。
「今回の判決を受け、安心しました。でもこれからのことを考えると、まだまだ続く道のりの途中にいるのだと思います。もうすぐ2025年ですが、新しい年を迎えるたび、この裁判に長い時間がかかっていることを実感します。
日本で同性婚が実現するまで諦めないと決めているけど、先が見えないことに不安になる時があります。そういう不安がある中、九州弁護団チーム、原告の仲間たち、サポーターの皆様、この裁判を応援してくださっている人達の存在が本当に温かいです。いつもいつもありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いいたします。
同性婚を実現できる立場にある国会議員の方々にも、この場を借りてお伝えしたいことがあります。短い言葉です。右から左に流さずに聞いてください。
愛に権利を!
もう一度、言います。
愛に権利を!
何度でも、言います。
愛に権利を!
私達の声が届きますように!!!」
続いて、登壇した原告の方たちがそれぞれ、判決を受けての思いを語りました。
◎まさひろさん
「お昼の休憩の間に何を話そうかと考えて、今までの裁判にかけてきた時間を振り返って、いろんなことを考えました。一つだけお伝えします。
13条の幸福追求権で違憲だと言っていただき、すごくホッとしました。結婚できない状態で法的には他人として扱われてしまうなか、何が困るかというと、いつ何時、事故などにあうかわからないのに、死ぬまで一緒にいたいのに、突然の事故で、死に目に会えない可能性があるということがあります。日々、小さな不安を抱えて生活を送っています。考えたくないけど、こんな状況で生きていくことは、疲れるし、ストレスがかかります。
今回、13条で違憲だと言っていただいて、自分たちで選んだ性的指向でもないのに結婚できない、権利がない状況は苦しいという思いに寄り添ってくださったと思います。
両親が高齢になってきて、このまま本当に結婚できるのか、海外に移住するかということも考えましたが、大好きな日本で、大好きな友人や家族に見守られながら結婚して幸せになりたいと思っています。
結婚に一歩近づいた判決だったと思います」
◎こうすけさん
「とても緊張しました。何も手につかない日々でした。地裁の時のような違憲状態という歯切れの悪い判決じゃなくてよかったです。しっかり違憲だと言ってくれて安心しました。
2019年から訴訟に参加し、顔を出して訴える決意をしましたが、それまでは自分のセクシュアリティを周囲に明かさずにいました。訴訟の中で、同性カップルが婚姻できないことで被る不利益を改めて感じましたが、誹謗中傷もたくさんあって、傷つけられました。それでも私たちが主張しているのは、特別な権利などではなく、ただ異性カップルと同じように好きな相手と結婚したい、選択肢を平等にくださいということだけです。
今日の判決は、13条について違憲だと、裁判長の方がゆっくりと穏やかな口調で、まるで昔から知っているかのように言ってくれて、涙が止まりませんでした。隣でまさひろさんが見るので、さらに涙があふれてきて…。
画期的な、すごく背中を押してくれるような、自己肯定感が上がる、希望をつなぐ判決だったと感じます。
立法府はこれを重く受け止めて、早急に法制度に着手してほしいです。基本的な人権、命の問題です。最高裁まで待つとかじゃなく、本当に困っている人たちのためにも、一刻も早く法制化を」
◎こうぞうさん
「すれ違う支援者の方たちもおめでとうと声をかけてくれましたが、今日の判決は、自分たちにとってうれしいだけでなく、原告だけでも弁護団だけでもなし得なかった、支援者の皆さんが何年も現地でもネットでも日常でも声を上げてくれたおかげだと思います。ありがとうございます。
今までの札幌高裁、東京高裁の流れから、そんなにおかしな判決は出せないだろうと思っていました。でも、判決の日が近づくにつれて、不安がつのり、胃が痛くなりました。なんとか不安を消し去ってくれる判決が出て、ホッとしています。
法律の専門家ではないので、深く理解しているわけではありませんが、10代の頃から、テレビのなかで同性愛者が笑いの対象、異常なものとされてきたり、手をつないで歩いていると異質なものを見るような目で見られたり。周囲の人は仕方ないと言っていましたが、なんで僕らだけ異常なものとして扱われるのか、おかしいと思っていました。今回の13条の幸福追求権、14条の法の下の平等での違憲判決は、ずっと自分が抱いてきた疑問は間違ってなかったんだと思えました。社会の扱いの方が誤っていたんだと。
この違憲判決自体、素晴らしいものでしたが、これがゴールではないし、きっとまた政府は「注視していく」と言うだろう。判決のたびにこういうコメントを出しているけど、もし最高裁で合憲と言ったら政府はこの問題は扱わなくてよかったんだと思うんだろうか? 同性婚の法制化は最高裁まで待たずとも、立法府の仕事でできるはず。まだ先は長いが、どうか最後まで見届けてほしいと思います」
◎ゆうたさん
「13条に違反とい言葉が聞けるとは思ってなかったので、驚きました。判決文は整理されていてわかりやすいものでした。言ってしまえば、当たり前のことを言ってくださったと思います。感謝します。
一方、当たり前のことなのに実現されていない現実について今回、国がどう動くのか、まだ注視を続けるのか、放置するのか。この国の対応に納得できないという思いがあります。
でも違憲なんだと言ってくださったのはありがたい。今しみじみ感じています。
まさひろさんたちが顔を見てさらに泣いていたと言ってて、いいなあと思って。私はこうぞうが号泣してて、引いてしまって(笑)。それでいいと思う。いろんなカップルがいるので。
国は、こっちはいいけど、こっちは無視するという態度をとってきた。(同性婚を認めてくれたら)幸せになれるのに放置しています。いち早く多くの人が幸せになる世界になることを祈っています」
その後、会場の記者の方たちから質問を受け付け、質疑応答の時間になりました。ものすごくたくさん、活発に質問が上がりました。1時間超にわたる質疑応答でした。とても長くなってしまうので、特に印象に残ったやりとりを一部抜粋してご紹介します。
――24条1項については違反ではないとする判決でしたが、「旧法下において、家制度の下〜」と説明されていますし、これは前向きなものと捉えていいのでしょうか?
森弁護士:「直ちに同条1項に違反するとまでは解し難い」という重みがはっきりしない、あっさりとした文章なので、前向きと言えるかどうかは、ちょっとわからないですね。
――選挙によって立法府の構成が変わり、同性婚に賛成の議員が増えたことについてコメントを。
こうすけさん:これを機に、議論の場を作ってほしいです。先日の石破総理の答弁はこれまでと少し変わった部分があり、期待。でも、これまでも裏切られてきたので…。
こうぞうさん:新たな議員も国会に入り、賛同が増えている。期待はしているが、今言われた通り、今まで何年も山ほど期待を裏切られてきた。自分たちにできるアプローチもしっかりしていきたい。まだ手放しで喜べる状況じゃない。ぜひ地元の議員に手紙を書いてほしいです。
――13条での違憲判決は初めてとのことですが、他の訴訟で認められなかったのは、主張の仕方が違ったということなのでしょうか。同じだとしたらどうして退けられてきたのでしょうか?
森弁護士:九州訴訟は2019年に少し遅れて始まっていて、それ以外の4箇所は同じ訴状で、実は13条単独での主張はしていなかったんです。札幌高裁が13条について判断したのも、弁護団としては言ってなかったけど、裁判所が判断したもの。九州は、単独で13条違反だと当初から言っていました。24条より先に13条を言っています。これまでの退けられ方としては、具体的な制度とか権利性がないのだというようなことではねられていたので、今回はそこが大きいと言えます。
――弁護団声明はありますが、改めて、今回の判決についての総括を伺いたいです。
石井弁護士:個人的な見解ですが、13条って憲法の根源(個人の尊厳)とも結びついた規定で、具体的な権利や個別の場面に結びつけるのが難しくて、そういう意味で、ちゃんと受け止めてくれてこのような判決を出してくれたことを評価したいです。
森弁護士:別制度の余地があると全く言わず、婚姻を認めないとダメだと言ってくれたのがうれしいです。
――東京高裁より踏み込んだ内容だったと思いますが、いかがでしょうか?
森弁護士:札幌は札幌、東京は東京でそれぞれの勝ち方をしていると思います。点数も100点とかじゃなく芸術点みたいな。うちはうちで100点です、みたいな感じだと思う。別制度の余地っていうのを排除して、はっきり違憲だと言ったのは価値が高いと思います。
石井弁護士:これまでの積み重ねの部分が大きいと思う。みんなが各地でいろんなボールを投げて、いろんな判断を引き出して。前の人がやってくれたことを踏まえて、僕らもやってきた。単純には言えないですね。
――13条で違憲というのはこれまで出なかった判断ですが、福岡高裁がどのようにその難しさを乗り越えたのだと思いますか?
石井弁護士:気合いの部分も大きいんじゃないか。憲法論っていろんな解釈があって、絶対の正解を言うのが難しい。もちろん私たちも、そういう判決を出しやすいようにアシストしてきました。
森弁護士:他の地域は13条単独では理屈を積み上げていなくて、福岡だけ言い続けてきた。ある意味、一敗一勝と言えるかと。
――誹謗中傷に傷ついたとのコメントがありましたが、ニュースなどのコメント? 実生活ででしょうか?
こうすけさん:実生活で面と向かって言ってくる人はいないですね。SNSの投稿やネットニュースのコメントです。
――別制度ではダメで婚姻に含めるしかないと言ったのは初めてでしょうか?
弁護団:東京高裁もここまではっきりとは言ってなかった。過去なかったかもしれません。
――判決で、宗教的な立場からの介入が許されないと書かれています。これまでの判決で宗教ってあまり出なかったと思いますが、なぜこのように書かれたと思いますか?
森弁護士:宗教のなかには同性愛に否定的な考えのところもあるためだと思います。たしかに、他の判決でこういう風にはっきり言ったものはなかったですね。
――こうぞうさんが「胃が痛かった」とおっしゃってましたが、何に対する不安だったのでしょう?
こうぞうさん:違憲判決しかないだろうと思っていたが、「万が一」があったらどうしよう…と。何年も同じように願ってきた人たち、今も偏見や差別にさらされている人たちが、もしよくない判決だったら、がっかりするのではないかと。でも、結果は不安が解消されるような判決で。家族も傍聴してくれてて、高齢の母が涙を流して。何十年かぶりに涙が出たよと言ってて。ああ、心から同性婚の実現を願ってくれてるんだなと思いました。
――13条で特定の制度を認めたケースはあるのでしょうか?
森弁護士:昨年10月の最高裁が性同一性障害特例法の要件についての判決でも13条が挙げられていました。でも、なかなか認められることが少ないです。
――なかなかないけれども今回認められたのは、それだけ違反が重いと判断したということ?
森弁護士:そうだと思います。価値判断。どれだけ重要なことかという。重みをわかってくれている。
石井弁護士:そう思う。これまでの積み重ねが発揮されている。
――九州の地で違憲判決が出たことの意味についてお聞きしたいです。
こうすけさん:九州にもたくさんの当事者がいますし、田舎であればあるほど、結婚圧力も強くて。今回の司法判断によって、同性婚に反対する人たちも時代に追いつくといいなと思います。
ゆうたさん:九州は保守的と呼ばれる土地柄だというのは私もわかっています。九州にも結婚したくてもできない人たちがいますし、その人たちを含めて幸せな社会になるべきだと言ってくれたように感じて。九州の当事者を勇気づける判決だったと思います。
――こうすけさんが、訴訟に参加するまではカミングアウトしていなかったとおっしゃっていましたが、今回の判決を聞いて、同じようなクローゼットの方たちの顔が思い浮かんだりしたでしょうか?
こうすけさん:傍聴に来てくださった方のなかにもクローゼットな方たちがいらして。言ったらどうなるかという不安や恐怖はよくわかります。今日の判決は、そういうカミングアウトできない人にも希望をつなぐものだったと思います。
――上告するとしたら、どういうことを訴えますか?
森弁護士:24条1項もあるし、ここまできたら国賠の請求もあり得ると思いますが、これから弁護団で相談します。
今回の判決と報告会で感じたこと
5年にわたって、時には心ない言葉に傷ついたりしながらも裁判を闘ってきた原告のみなさんが、今回の判決でようやく笑顔で喜びを語れるようになって、本当によかったと思いました。(これは支援者も含めてみんなで勝ち取った判決だとこうぞうさんがおっしゃっていたので)おめでとうございますと申し上げるのがいいのかどうかわかりませんが、拍手を贈りたい気持ちです。また、それぞれのカップルが、このような記者会見の場での受け答えにおいても、仲睦まじさや信頼感がにじみ出ていて、とても素敵でした。婚姻とは何だと思いますか?という質問に、まさひろさんが「健やかなるときも病めるときも、彼とずっと一緒にいることができて、安心できる権利だと思います」と答えて会場から拍手が起こりましたが、その時のこうすけさんの恥ずかしそうな幸せそうな表情がとても印象的でした。たぶん記者の方たちも、そういうお二人の姿を見て、感じるところがあったんじゃないかと。
石井弁護士もおっしゃっていたように、各地での判決の積み重ねがあって(もっと言うと、すでに亡くなった方も含め、何十年も前から同性愛者の社会的地位向上のために尽力してきた先人たちが築いた礎の上に)今日のこの素晴らしい判決があるんだと思います。札幌高裁の判決も東京高裁の判決も素晴らしかったですが、記者会見&報告会を聞いて、今回の判決が札幌や東京とはまた違う視点でいいことを言ってくれて、それぞれが響き合うというか、いろんな角度から「同性婚認めるしかない」という結論を揺るぎないものにするために補強してくれているような、そんなイメージを持つことができました。九州の弁護団の方たちが(他の4ヵ所の訴訟では難しそうだと見送られた)13条単独での主張を行なってきたことが今回の判決を導いたということもわかり、あえてそこを信じて貫いてきたことの勇気や先見の明にも敬意を表します。
何年後かわかりませんが、最高裁で違憲判決が出ることは間違いないでしょうし、そうなれば国会も法制化しないわけにはいかなくなります(憲法が変えられたりしない限りは)。それまでは生きて見届けなければ、と思えます。この訴訟は婚姻の権利を実現するだけでなく、LGBTQコミュニティへの「希望」という名の贈り物なんだと思います。
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