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レポート:「トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志の声明」掲出プロジェクトに関する会見

トランスジェンダー追悼の日にあたる11月20日、映画監督の東海林毅さん、俳優の中村中さん、水越とものりさんが登壇し、「トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志の声明」掲出プロジェクトに関する会見が行なわれました

 こちらのニュースでお伝えしたように、トランスジェンダー追悼の日にあたる11月20日、芥川賞作家の李琴峰さんをはじめ50名を超える小説家が「LGBTQ+差別に反対する小説家の声明」を発しました。また、東海林毅さん(代表)、飯塚花笑さん、今井ミカさん、加藤綾佳さん、住本尚子さん、中村真夕さん、深田晃司さん、矢野ほなみさんが発起人となり、97名を超える映画監督が賛同し、同様の趣旨の声明を発しました。
 東海林さんは同日午後、俳優の中村中さん、水越とものりさんとともに記者会見を開き、このプロジェクトについて説明し、映画製作に携わるLGBTQのリアルな声を紹介し、問題提起と要望を行ないました。その模様をレポートします。

 最初に東海林さんが、この声明を発出することにした経緯を説明しました。11月20日のトランスジェンダー追悼の日に李琴峰さんらが「LGBTQ+差別に反対する小説家の声明」を出すと聞いて、これに合わせて映画監督に呼びかけ、賛同を募り、声明を出そうと思い立ちました(賛同してくださった監督たちにお礼を申し上げます)、今回、映画業界ではなく映画監督とした理由は、誰が出したのか、声明の主体をはっきりさせたかったということです、映画監督は映画の内容に関して特に大きな責任を負う立場であり、社会的マイノリティを表象として扱う事もしばしばあって、社会に影響を及ぼす存在ですから、差別に無関心ではいられないはずです。というお話でした。
 それから、声明文の内容について、「個人的には、最近、性的マイノリティの権利についての司法判断に前進が見られ、自分にとっても良い方向に向かっていると思っていたのですが、ここ数年は揺り戻し=バックラッシュのような攻撃的・差別的な言動がSNSなどで目立ち、特にトランス差別がひどい状況です。匿名の人だけじゃなく、一部の社会的地位のある人も、それを扇動するような発言をしており、大きな問題です。今こそ反対する態度を明確にする必要があると感じ、トランスジェンダー追悼の日に声明を出すことにしました」と語りました。
 
 ここで、発起人の一人である深田晃司監督からのビデオメッセージが流されました。
「表現の場から誰も排除されてはならない」「表現はフィードバックであり、私には世界はこう見えていると世界に返す営みである」という言葉が強く印象に残りました。
 
 続いて、映像・映画・演劇・芸能業界で働くLGBTQ+当事者への偏見、差別、ハラスメントの事例が紹介されました(公式サイトに掲載されていますので、ぜひご覧ください)
「業務内容とは関係ないにもかかわらず、撮影現場で大勢のスタッフ、出演者もいる中で性別適合手術を受けたか否か、身体の状態について他スタッフから聞かれたことが複数回ある」
「公開トークの場で作品内容と関係なく唐突に同性の登壇者の中から好みのタイプを選ぶように司会者から求められた」
「公衆の面前で自身のセクシュアリティについて確認された」
「撮影で「オカマちゃんな感じで」と演出指示を受け、屈辱的な気持ちになった」
「MtFとカミングアウトし女性として事務所に所属したとたんに仕事が全く来なくなった(干された)」
「出演交渉の際に「朝からLGBTの人を画面に出すと不快に思う視聴者がいる可能性がある」と言われ、他方では「世間的にはトランスジェンダーはもう当たり前。今さら使っても新しさがない」と言われ、いずれも属性を理由として出演を断られた」
「ドラマのオーディションで「LGBTが現場にいると(宿泊や入浴の対応が)面倒くさい。どう対応してよいかわからない」という理由で採用されなかった」
「自分が同性愛者だと思われるのが嫌だという理由で、ゲイを扱った映像作品の宣伝協力を出演者に断られた」
「LGBTQ監修として現場に参加した際、撮影前にストレートの演出家から「自分は“わかっている”から大丈夫」と釘を刺され、十分な監修・サポートを行うことができなかった」
など、本当にたくさんの事例が挙げられていました。
 東海林さんは、声明を出すにあたり、カミングアウトしていない当事者の方も多く、被害が可視化されていない、加害性や問題点が認識されてないと思い、このような事例を集めることにして、20名以上の当事者の方に話を聞いたそうです。しかし、その過程で、実際は差別やハラスメントの被害を受けているのに、それを被害と認識できていない、よくよく聞いてみるとそれは差別やハラスメントにほかならないケースだったということが度々あったといいます。 
 事例自体も「こんなにいろいろあるんだ」と驚かされましたが、(恐らくは内なるフォビアゆえに、あるいは長年バカにされたり差別されたりすることに慣れっこになってしまって)被害を被害と思わない方が多いという話にも、深刻さを感じました。

 それから、当事者の立場から、中村中さんと水越とものりさん(『虎に翼』に出演したお二人です)がお話しました。
 
 中村中さんは、「とある映像作品からオファーをもらった際、台本に「女装をしている男性の役」と書かれていて、私はトランス女性であって、女装をしている男性ではないと監督に話したところ、監督は変更を考えてくれたんです。私としては、役者として経験を積みたい、チャレンジしたいという思いもあり、出演を決めました。実際は、台本の人物の説明が、女装をしている○○からトランスジェンダーの○○に替わっただで、例えば男性よりも強い力を持っているとか、化粧を落としたら見れたものではない、といった記述がありました。もともと男性なのだからという先入観ですね。撮影の後半、監督から、『もしも中村中が引き受けてくれなかったら自分でやろうかと思っていた。髭面に口紅を塗って』と、少しユーモアのある会話のように披露され、自分の中にあった違和感が大きくなりました。トランスジェンダーと女装を嗜む男性の違いを理解してない、さらには、性的マイノリティを嗤ってもよい対象として扱っていると感じられました。台本や演出に違和感があったら相談を、と言われていましたが、現場の進行を止めてまで指摘したり相談するのは難しく、口に出せませんでした」という経験を語ってくれました。
 また、「最近は現場でハラスメント講習があったりして、事前に、嫌なことがあったら都度相談してくださいと前置きがあったりします。でも、実際に何かあったときに言い出せるかというと、作品づくりに水を差すと思い、苦痛を感じていても我慢してしまう。そういうことが、被害が可視化されないことにつながってると思います」とも。「性的マイノリティであることを取り沙汰されて働きづらくなるケースもあって、とある信頼関係ができてない関係者から、多数の人がいるなかで、ジェンダーに関する質問をされることがありました。『自分にはゲイの友達もたくさんいるから大丈夫』と言われたり。まだ友達じゃないのに、ふだんからジェンダーについてオープンにしている人じゃない人に突然の質問は答えたくないので、困ります。答えたくなければ答えたくなくていいと思うけど、ノリが悪いと言われるんじゃないかとか、仕事の現場に支障をきたすんじゃないかと思ってしまって。もっと仲良くなろうと思って質問してくださったとは思うのですが…。関係を深めたいのであれば、食べ物の話や趣味の話がいいんじゃないかと思います」
「同じ現場で、いつから女性になりたいの? どういう幼少期だったの?などと聞かれることがあり、その場にいた女性が、あとで『今の話はいやな気持ちがした。あなたは中村中なんだから』と言いたかった。そもそもこんなことがなければ、男性とか女性とか関係ないってことを言いづらかった」と言ってくれたんです。ですから、これは性的マイノリティだけじゃなく、女性などにとっても意味があることだとお伝えしたいです」
「私が自分のジェンダーアイデンティティを公表しているからと言って、何を聞いたり言ったりしてもいいわけじゃない。からかわれるために公表したわけじゃない。差別を我慢することをよしとして公表したわけじゃない。『こうなることはわかってただろ?』って言われることもありますが、差別がある前提で、差別を受け入れろと言ってるのと同じです。どんな人も、我慢したり、苦しんだりしてはいけない。本来の力を発揮できない」
 東海林さんはこの話を受けて、俳優は受注者なので、権力勾配があって、監督にはその場で指摘しづらいものがありますよね、と補足していました。


 水越さんは、まず、ご自身が10年前にカミングアウトしたときのことを話しました。そのとき出演していた舞台が『先人たちがつないだ命のバトン』という副題がついた作品で、演じているうちに、「同性愛者である僕にとって、先人から受け継いだ自分の命を大切にするということは、ありのままの自分を隠さずに出していくこと、それが物理的に命を繋げない僕なりの命のバトンだ」と気づき、監督や主要キャストにカミングアウトしたのです。「後悔はしていません」
 仕事が減るのではないか、ファンが減るのではないか、演じられる役が狭まるのではないかという不安もありましたし、実際にそう言う人たちもたくさんいたそうです。
 水越さんはその後、オーディションを受ける際、プロフィールにゲイであると書くようにしたところ、審査に通らなくなったといいます。「イメージに合わないと言われてしまえばそれまでですが、私は差別があると感じています」「日本にカミングアウトする俳優が少ないのもそういう理由だと思います」
 水越さんは、日本のドラマにLGBTQのキャラクターをもっとたくさん登場させてほしい、10人に1人はLGBTQなのだから、登場しないほうが不自然、いないものにしているように感じる、と訴えました。「私が子どもの頃、海外ドラマでLGBTQのキャラクターが登場しているのを見て、勇気づけられていました。今のようにSNSもなく、情報も少ない時代です」「日本のドラマにも当たり前のように登場して、LGBTQが存在していることを示してほしい」「俳優ももっと発信していくべきだと思う。この機会に考えてほしいです」
 東海林さんは、カミングアウトしようとすると、周りからこのように言われるため、オープンにできない人が非常に多いと、根本に社会からのプレッシャーがあると語りました。また、書類選考でゲイだから選考から外そうとか、それは見えないけれども、きっとそこにそういう力が働いていると感じさせるものが社会にあることが問題だと指摘しました。そして、11月にフリーランス新法が施行され、ハラスメント対策が必須になった、今日集めた事例を、芸能従事者業界とか、団体にも読んでいただいて、業界としてSOGIハラについて考えてほしいと訴えました。「業界で働く当事者はもちろん、それ以外の方にもプラスになると思います」


 その後、質疑応答となり、活発に質問が出されました。
「映画監督やいろんな人がみんなわかってないと正しく伝わらないという面がある。わかってない方がいるなかで、今後、演者としてどういう風に臨んでいこうと思いますか?」という質問に対し、中村さんは、「例えば 以前、別の作品で、女装している同性愛者としてのオファーがあり、このまま台本を進めるとどういうふうに見えるかということを説明しました。たしかに役者としては、どんな役でも演じられるのが理想だと思いますが、社会的影響を考えると、トランス女性に同性愛者の役をさせるということが、おそらく、その作品ができたときに、気になる方は情報を整理するのに時間がかかったり、混乱したり、誤解を与える可能性がある。つくったチームがどう考えているのか、のちに問われると思いました。よく話し合ってみると、女装している同性愛者の役をやってほしいわけじゃないとわかることもありました」と語り、東海林さんは「作り手がLGBTQのことをよく把握していなくて、派手な見せ方をしたい、といった欲求が勝ってしまったり。出演者が言うこともできるが、あまり強くは言えない。正しい知識を伝える役を俳優に負わせるのは酷だと思います。だから監修が入ったほうがいい」と語りました。「ただそれは、監修さえ入れば現場の人が考えなくていいという免罪符じゃない、炎上を防ぐために入れるわけでもないと、現実のマイノリティに悪影響を及ぼさないためです」

「映画や演劇だからこそ、差別なりが温存されてる要因があるのか。業界ならではの特殊性について」という質問に対して、東海林さんは「作品ごとにかかわる人が変わっていく。しかも多くの人がかかわっている。そのなかには気づいてないけど偏見がある人も当然いる。そういう意味では特殊かもしれません」と、水越さんは「“面白い人たち”として扱われてきた過去がある。テレビでつくられたイメージ。ぼくたちの本質を見てもらえなかったと思う」と指摘しました。東海林さんは「決して“面白いキャラ”ではないということ。これは誰かが責任をもって変えていってほしい。自分もやります」と語りました。
 

会見を振り返って
 
 11月としては40年ぶりの真冬並みの寒さとなった日でしたが、この会見の会場は実に熱い空気に満ちていました。

 家庭や学校、職場、地域社会、SNSなどで心ない言葉を投げかけられたりハラスメントや差別を受けたりということの問題は少しずつ認知され、例えば職場ではSOGIハラやアウティングの防止が措置義務とされたり、社内で制度を整えたりする企業も増えてきて、LGBTQの職場環境は改善に向かってきたと思われますが、映画や演劇などの現場についても今回、具体的なハラスメントや差別の体験談が語られ、そのリアルな実態が可視化されました。映画製作の現場でこんなことが起こっていたのか…と驚くような事例ばかりで、世間の方たちにとっても、LGBTQコミュニティにとっても、貴重なお話になったと思います。
 これを機に、映画やテレビ、演劇などの製作の現場で(本当はパワハラ防止法で全ての企業がSOGIハラ防止を義務づけられているわけですから)LGBTQへの差別やハラスメントがなくなるような対策が取られ、当事者が(カミングアウトしていないとしても)働きやすい現場になっていくことが期待されます。
 
 米国のアカデミー賞では今年から、出演者やスタッフに女性、人種/民族的マイノリティ、LGBTQ+、障害者がいないような作品には作品賞の応募資格が与えられないことになっています。LGBTQを描く作品であれば現場にLGBTQがいるのが当然、ということです。水越さんがおっしゃっていたように、ドラマなどでLGBTQをもっとたくさん描いてほしいですし、その際はLGBTQが公正に描かれるよう、信頼できる当事者の監修も入ってほしいですし、出演者やスタッフの中にもLGBTQがいるという状況がふつうになってほしいですね。
 
 映画、テレビ、演劇、小説、漫画、ジャーナリズムなどについてLGBTQが公正に扱われているかどうかを監視する(優れた作品を表彰したりもする)GLAADのような組織が、そろそろ日本でもできていい頃ではないか、と思ったりもしました。
 

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