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レポート:岡山レインボーフェスタ2024
10月6日(日)、岡山市で第4回を数える岡山レインボーフェスタ2024が開催されました。好天に恵まれ、パレードも素晴らしい盛り上がりを見せました。前夜には岡山城でイベントも開催されました
岡山では2021年、「ももたろう岡山虹の祭典(愛称:ももにじ)」が初開催され、約300名が参加して盛り上がりを見せました。「ひとりじゃないよ」というメッセージを掲げたレインボーカラーのトラック「虹トラ岡山」の取組みも素晴らしかったです(レポートはこちら)。2022年も岡山レインボーフェスタと名称を変えて開催され、昨年は念願の下石井公園に会場を移して開催されました(レポートはこちら)。今年も第4回を数える岡山レインボーフェスタが下石井公園で開催されましたが、初めて岡山市が共催し、岡山城で前夜祭「レインボーキャッスル」も行なわれ(これまでお城の前の広場がパレードの終着地点になったことはありましたが、お城の「中」でLGBTQイベントが開催されるのは初めてでは?)、新しさが感じられました。そんな岡山レインボーフェスタのレポートをお届けします。
(取材・文:後藤純一)
前夜祭「レインボーキャッスル」
2年前に令和の大改修を終えて(初めてパレードが開催されたときはまだ改修中でした)、1フロアをまるごとイベント用に貸し出せる多目的フロアに改修された岡山城。今回、岡山市がレインボーフェスタを共催しているということもあり、岡山のシンボルの一つである由緒ある岡山城という場所で岡山レインボーフェスタ前夜祭「レインボーキャッスル」が開催されることになったのでした。前代未聞のお城の中でのLGBTQイベントの模様をレポートします。
10月5日(土)、岡山城の大きさに圧倒されながら中に入ると、2階のフロアに案内されました。お城の歴史を解説するパネルなどもありつつ、プロジェクターで白い壁に投影できたり、椅子もたくさん並べられたりというイベントスペースになっていました。
今回の前夜祭「レインボーキャッスル」はシンポジウムと映画上映会の2本立てでした。司会を務めてくださったのは、フリーアナウンサーの加藤昌美さんです。
18時から「LGBTQが働きたい、戻ってきたい岡山に」というテーマで、職場環境や雇用について話し合うシンポジウムが行なわれました。四国学院大学教授で岡山のパレードにも参加してきた大山治彦さんがコーディネーターを務め、岡山市人権推進課の加藤恵一さん、社会保険労務士の谷川由紀さん、ビューティカウンセラーの高野晶さん(当事者の方)、日本生命の人事部の方、立岡靴工房の社長さんが登壇しました。
日本生命さんの、トランスジェンダーの方が(生命保険自体入れなかったりするなか)加入後に性別変更した場合も希望する性別で保険料を選べるようにしているというお話やDE&Iを担当している「輝き推進室」のこと、立岡靴工房さんのトランス男性の靴の困り事の相談に乗ったり、経済団体の会合にスカートを穿いて行った話(いいねと言ってもらえたそうです)などが素敵でした。
社会保険労務士の谷川さんは、企業から就業規則改訂の相談があったときにLGBTQの施策も盛り込むことを提案すると、最初はわからないと言うけど、だいたい9割くらいは導入してくれるとおっしゃっていて、なんてパワフルなアライの方だろう、と拍手したくなりました。
一方、トランスジェンダーの高野さんは、働いているクリニックの先生がそれを前面に打ち出したくてどんどん周りに言ってしまって困ったという、アウティングの経験を語っていました。
質疑応答では、会場から、経産省トイレ裁判の最高裁判決があったにもかかわらず国の動きが遅い、自分は制服のある公務員だけどまだ制服が支給されない、という当事者の方からのお悩みが語られ、そのお話へのお答えとして、岡山市の加藤さんが、庁内にはまだトランスジェンダーとカムアウトした人はいないが、多目的トイレは対応するし、全職員が中塚先生(岡山大教授で日本GI学会の理事長)の研修を受けている、と話していました。
最後に大山さんが締めの言葉として、この企画はプライドの一環で行なっている、プライドとはかけがえのない自分を誇ることであり、自分を知ってもらう闘いである、と語っていて、素晴らしいと感じました。
19時半からは、ゲイの映像集団「ちくわフィルム」の『幸運の犬』の上映会が行なわれました(『幸運の犬』はレインボー・リール東京でも上映された感動のゲイ映画です)。第1回からパレードに参加している岡山市のバー「AX」のRYUHEIさんがちくわフィルムのファンで、代表の市川さんに『幸運の犬』を観てもらったところ、号泣だったそうで…これはみんなに観てもらおうということで映画上映会が決定したんだそうです。監督のまちょさんが岡山県出身だったり、映画の中でも主人公が恋に落ちた男の子が岡山に帰るシーンが描かれていたりもして、実は岡山に縁の深い映画でもあります。
会場には、シンポジウムの時間からすでにちくわフィルムファンのみなさんが詰めかけてフロアに人があふれていたので、急遽、スクリーンを増やしての上映となりました。すすり泣いてる方、何人もいらっしゃいました。
上映後のトークでは、監督のまちょさんが「まさか自分の映画が岡山城で上映される日が来るなんて思ってもみませんでした。感無量です。たくさんの方たちに感謝」「この映画はほぼドキュメンタリーで、“冴えないおじさん”が前向きに変わっていくお話です」と語り、主演のヒゲポンさんも「映画で描かれたのは現実の自分とほとんど同じです。幸運の犬の魔法というより、周りの人たちに助けられて変わっていく。ゲイのことというより、自分の成長のお話です」と語っていました。
せっかくなのでちくわフィルムのタレントである(トランスジェンダー女性の)あゆさんとゲンキマンさんも一言お話を、ということになったのですが、あゆさんは、映画を観て感情が揺さぶられたのか、「私はトランスジェンダーとして生きづらかったことはないけれど、日々の生活のこととか、人として生きづらくて…」と涙ながらに話しはじめ、身につまされるものがありました…。一方、ゲンキマンさんは、(代表の市川さんとダイニングバーを経営するパートナーさんが、会場のお客さんのためにカフェブースでサンドイッチやコーヒーなどを販売していたのですが、大量に余っていたようで)元気よく話題を変えて、「後ろのブースで売ってるサンドイッチなんですけどね、僕ね、こんな美味しいサンドイッチ、食べたことないですよ。この卵がフワフワで本当に絶品。ぜひみなさん買って帰ってください」と言って、優しさを感じさせました。夜食用に僕も1つ買ったのですが、なんと10個買っていた方もいて、お客さんもあったかい人が多いなぁとしみじみ。
LGBTQ(ということだけでなく、人として)の生きづらさに寄り添おうとするような、あたたかい気持ちにあふれた、胸が熱くなる前夜祭イベントでした。
よく考えると、お城の中で、感動の純愛ドラマとはいえちょっとセクシーなシーンもあったりするゲイ映画が上映されたのはスゴいと思いますし、このイベントを岡山市が共催してくれたことも本当に素晴らしいと感じました。
岡山レインボーフェスタ
10月6日(日)は朝からよく晴れ、暑くて日焼けしてしまうくらいの日になりました。
会場の下石井公園には、レインボーの飾りつけをした企業や団体のブースや、飲食ブースが並び、芝生エリアでは子どもたちも走り回ったりして、とてもレインボーフェスタらしい光景になりました。
まず出展ブースからご紹介いたします。
撮影はNGだったのですが、ちくわフィルムブースのところにはたくさんのファンの方がいらっしゃいました。
時間がなくて写真は撮れていないのですが、立岡靴工房、にじーず、ハピネスお茶会、JPN(全国のプライド団体)のほか、カレーやラーメンやガパオライス、スイーツなどのフード、コーヒーやいろんなドリンクのブースも出ていて、多彩でにぎやかでした。
11時にステージイベントが始まり、代表の市川さんと副代表のゆうさんがご挨拶しました。今回は市と共催であること、数日前まで雨予報だったけど見事に晴れて、今回のテーマである「ハレバレ!」にピッタリないい天気になったことなどが語られ、爽やかな幕開けとなりました。
パフォーマンスのトップバッターは、京都レインボープライドなどにも出演しているシンガーソングライターのキズキシルシさん。椎名林檎さんの『丸の内サディスティック』やマッキーの『どんなときも』など、絶妙にゲイのみなさんの琴線に触れるような素敵な曲を歌ってくれました。
続いて岡大のアカペラサークル「ぷさいく」のみなさん。4名の若さあふれる男の子たちが、ちょっと恥ずかしそうに初々しさありありで(でもちょっと下ネタも交えて)アカペラを披露してくれました。
それから、「結婚の自由をすべての人に」関西訴訟の原告である田中昭全さんや、事実婚の当事者の方などが登壇し、『名前、変えたい? 変えたくない?』と題したトークショーが行なわれました。同性パートナーシップの権利保障とも関連し、選択的夫婦別姓のことにも触れるお話でした。
みんな大好き!ドラァグクイーンによるショータイムが始まりました。大阪のCECIL・K・Carlottaさんはブルーの大きなフリルのドレスで美しく舞い、ステージから降りてお客さんにアピールしたり、素敵なパフォーマンスを披露してくれました。昨年の岡山レインボーフェスタでデビューしたというGagaka BićheさんとVovoka Bićheさんは(実の姉弟だそう。ビックリ)、お二人ともこれぞドラァグ!という派手な演出で会場を沸かせました。みなさんカッコよかったです。
映像集団ちくわフィルムの出演者の方たちによって結成されたイケオジアイドルグループ「PON☆STAR」が登場しました。今回は芋☆STAR、栗☆STARというユニットと本体の「PON☆STAR」のライブ、そしてサックスのKOJIさんの演奏もありました。ちくわファンの方が大勢見守り、盛り上がっていました。
ステージパフォーマンスのトリを務めたのは、岡山レインボーフェスタをずっと盛り上げてくれたLittle Black Dressさん。今回も「Over The Rainbow」をオリジナルのアレンジで弾き語りしてくれたり、MCでLGBTQへの思いを語ってくれたりして、本当に素晴らしいライブでした。キラキラ光るシルバーのパンツも長身に映えて、素敵でした。
岡山市長が公務で来られないということで、林副市長が登壇し、「一人一人多様性が尊重される社会を目指す」「LGBTQへの理解がまだないなか、一歩でもそういう社会に近づくように邁進していく」とスピーチしました。
開会式が終了し、パレードへ向けての整列が始まりました。
14時過ぎ、最高に晴れた(暑いくらいの)青空の下、パレードがスタート。まず、キャストを乗せたフロートが出発し、それから隊列が下石井公園を出発して、柳川筋でフロートと合流して行進が始まりました。
先頭を、代表の市川さんやLittle Black Dressさんが横断幕を持って歩き、そのすぐ後に、1つめのフロートが続きます。セシルさん、ブリチェリーさん、ショコラビッチさん、ガガッカさんを乗せたDJフロートで、パレードにふさわしい定番のゲイアンセム(クラブミュージック)がガンガン流れ、パレード参加者のみなさんを盛り上げました。曲がアゲアゲすぎて、写真を撮りながら(年甲斐もなく)踊ったり。200m先でもよく聞こえるくらい、音響が良かったです。
2つめはヴォヴォカさん、ちくわフィルムのヒゲポンさん、あゆさん、ゲンキマンさん、そしてバー「AX」のRYUHEIさんが乗り、ちくわフィルムゆかりの歌を流しながらファンのみなさんが一緒に歌ったり、その合間にビルボードTOP40系の洋楽も流れ、その間はドラァグクイーンのヴォヴォカさんがリップシンクで盛り上げ、という、どちらのテイストも楽しめるようなフロートでした。たぶんパレードに参加するのは初めてじゃないかなと思われるような方たちもたくさん歩いてましたし、沿道で応援する方も結構いらっしゃいました。
路面電車が行き交う桃太郎大通りをゆっくり進み、岡山駅の前で左折し、高島屋にさしかかると、今年も大きなレインボーフラッグが掲げられ、高島屋の(たぶん)お偉いさんたちがレインボーフラッグを振って応援してくださって、パレードが盛り上がりの頂点に達した感がありました。
それからイオンモール岡山や杜の街を過ぎて、やはりレインボーフラッグが掲げられた(今年は共催ですから、当然ですよね)市役所の前を左折して、柳川筋でゴールしました。
陽の当たる大通りを音楽とともにパレードする楽しさを思う存分味わえるパレードでしたし、JPN(全国のプライド)のみなさんのフラッグとともにバイセクシュアルだったりノンバイナリーだったり、また、最近はほとんど見なくなったレザープライドフラッグやベアプライドフラッグを持った方たちも歩いていて、感動がありました。ドラァグクイーンやトランス女性だけでなく(GOGO BOYとかではない)お腹の出た髭面のおじさん(熊さん)たちがフロートに乗って盛り上げる光景も素敵で、多様性が素晴らしかったです。ちくわフィルムのフロートのおかげでパレードに初めて参加したという方も結構いらしたようです(2000年代のTLGPの時代、ゲイインディーズミュージシャンたちがパレードを歩こう!と鼓舞していたのを思い出しました)。いつか日本のパレードも、台湾とか海外のように、性的に大らかで自由な、本当の意味で多様性あふれるパレードになるといいなとずっと思っていましたが(日本からあれだけたくさん台北に行くのはそういう意味もあります)、岡山のパレードはそういう夢を思い出させてくれました。
帰着後、しばらくしてエンディング(閉会式)が始まりました。
JPNのみなさんが一言ずつご挨拶しました。広島ではこれまでフラワーフェスティバルの一フロートとして参加するかたちでパレードをやってきましたが、来年秋に、単独でのプライドイベントを開催するそうです。香川でも、プラウド香川30周年を記念し、来年の11/3にパレードを開催するそうです。愛媛では来年3/8に「えひめプライド フェスタ&パレード」が開催されます。
それから、岡山といえばこの方、岡山大教授で日本GI学会理事長の中塚先生がスピーチし、昨年の最高裁判決に触れて、治療できない方も多い実態を紹介し、ようやく手術が不要になり、これから法律が整備されていくことに期待を込めた言葉や、日本GI学会としての活動についてお話しました。
副代表のゆうさんと代表の市川さんがご挨拶し、参加者のみなさんに感謝の言葉を述べました。
フィナーレとして4CUSのみなさんが演奏し、ドラァグクイーンの方たちもステージに上がり、バルーンリリースならぬバブルリリースを行ないました(みんなでシャボン玉を飛ばしました)
最後に、会場に残っているみなさんで集合写真を撮りました。ちくわ関係の方などはアフターイベントのためにすでに移動してしまっていたり、写っている人数は実際より少なめになっていますが、たぶんパレードは200名くらい、全体では(新聞記事に500名とあったので)500名くらいが参加したのではないかと思われます。
天候にも恵まれ、本当に「ハレバレ」としたパレードになってよかったです。
スタッフや出演者、協力者のみなさん、ありがとうございました。参加したみなさん、おつかれさまでした。また来年、笑顔で会えるといいですね。
- INDEX
- レポート:「トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志の声明」掲出プロジェクトに関する会見
- レポート:東京トランスマーチ2024
- レポート:みやぎにじいろパレード2024
- レポート:「work with Pride 2024」カンファレンス
- レポート:やまがたカラフルパレード
- 来年ワシントンDCで開催されるワールドプライドについて、Destination DCのエリオット・L・ファーガソンCEOにお話を聞きました
- レポート:レインボーフェスタ!2024(2)
- レポート:レインボーフェスタ!2024(1)
- レポート:IGLTA総会in大阪
- 「結婚の自由をすべての人に」東京一次訴訟高裁判決の意義と喜びの声