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レポート:とくしまプライドパレード
11月6日、徳島市で、県としての同性パートナーシップ証明制度導入を訴えるべく、とくしまプライドパレードと、俳優で一般社団法人Get in touch代表の東ちづるさんが登壇する講演会が初開催され、約150名の方たちが参加しました。
徳島市で2022年11月6日(日)、俳優で一般社団法人Get in touch代表の東ちづるさんの講演+副知事などが登壇するパネルトークの「ダイバーシティを考える会」と、初のプライドパレードが開催されました。前夜には、主催の長坂航さんが経営するバー「BITCH」でドラァグクイーンのパーティも開催されました。
こちらの記事でもお伝えしたように、長坂さんは2016年、当時30代だったゲイのお客さんが自死で亡くなるというつらい経験をしています。「結婚して子どもを持たなくては、と悩んでいた。孤独感を深めていたと思う」と長坂さんは語っています。男子中学生から「男の子が好きだけど、女性の気持ちを持っているわけではない」と電話相談を受けたこともあるそうです。「悩まなくていい。同じような人はたくさんいる」と答え、「自分の時と同じ。若い子も苦しんでいる。だからこそ、変えていきたい」との思いを強くしたそうです。2019年、お店に来られたアライのお客さんと意気投合し、市民団体「レインボーとくしまの会」を発足させました。12月に徳島市議会に同性パートナーシップ証明制度導入を求める陳情を提出、採択され、翌年4月から制度がスタートしたほか、2020年には県内7市に陳情を提出しました。そうして徳島県では現在、9市町が制度を導入するに至っています。「声を上げなければ、性的少数者はいないものとされる。それが一番つらい。パートナーシップ制度は当事者が利用するかどうかではなく、制度として存在することが重要です」。長坂さんはじめ「レインボーとくしまの会」の皆さんは、県内でまだ15の市町村で制度が導入されていないため、「住んでいる市町村で権利に差が出るのはおかしい」として県としての制度の導入(条例の制定)が必要だとして、今回の「ダイバーシティを考える会」講演会とプライドパレードを開催することにしたのです。
こちらにも書いているように、私自身が地方出身者であり、地方でパレードを開催することがどんなに勇気が要るかということもよくわかりますし、だからこそパレードを開催することに大きな意味があるということも本当に実感していますので、今回、応援の意味を込めて、徳島のプライドを取材してきました。わずか24時間の滞在ながら、徳島のコミュニティの温かさと素晴らしさを実感できる、とても充実した体験ができました。レポートをお届けします。
(取材・文:後藤純一)
前夜祭 QUEEN PARTY @ bar “BITCH”
私は徳島に行くのが初めてで(そもそも四国に上陸するのが初めてです)、右も左もわからない状態で徳島に降り立ち、ワシントンヤシ(パームツリー)の並木が南国みたいだなぁと思いながら、夕食に阿波尾鶏をいただき(美味しかったです)、20時過ぎ、小雨が降るなか、バー「BITCH」を目指し、秋田町の歓楽街へと向かいました。
バー「BITCH」に着くと、DJさんがプライドパレードで定番のクラブミュージックで盛り上げ、ドラァグクイーンのみなさんが踊っていて、予想以上にクラブパーティでした。誰も知っている人がいないなか、おそらくパレードのお手伝いもしていると思われる受付の方に聞いて、「BITCH」のママである場末スダチーナ(長坂さん)を紹介していただき、簡単にご挨拶させていただき、隣にいたゲイのお客さんとお話をしたり、ショータイムを楽しんだりしました。大人の事情で詳しくは書けないのですが、徳島出身のアーティストさんがプライドを応援するために駆けつけ、美輪様の名曲「愛の讃歌」を歌ってくれたりもして…感動しました。
MCではママさんが、「こうしたパーティを開くのも数年ぶりです、コロナ禍の間、周年パーティを開くこともできず、お店を続けるのも大変でした…」と涙する場面もあり、温かい拍手と声援が起こりました。そして、「明日はみんなでパレードに参加しましょう!」と呼びかけられました。
ドラァグクイーンであり、LGBTQの権利のために活動し、プライドパレードも開催する長坂さんは、まるで「徳島のマーシャ・P・ジョンソン」のような方だなぁと思いました。
パレードの前夜にこのような素晴らしいパーティがあって本当によかった、徳島に来てよかった、と思いました。
とくしまプライドパレード
6日の日曜日は見事な晴天で(「しまった、日焼け止めを持ってくればよかった」と後悔するほどの日差しの強さでした)、絶好のパレード日和でした。
12時半頃、駅前の一角の広場が、にわかにレインボーカラーに染められました。選挙カーのような車の上にスーツ姿の長坂さんとドラァグクイーンのお二人が乗って、マイクで道行く人に呼びかけ、レインボーカラーのアイテムを身に着けたり「徳島県でパートナーシップ制度を」と訴えるプラカードを持った方たちがたくさん集まってきました。講演会に出演するメインゲストの東ちづるさんも登場し、写真撮影が行なわれ、13時頃にパレードがスタートしました。
Loftや無印良品が入っている「amico」の向かいの広場を出発し、講演会の会場であるホテルクレメントの前を通って徳島駅に沿って右手へと回り、ホテルサンルートの前の歩道橋に上り、歩道橋の上から駅前の人々に向けてアピールした後、元の広場に戻るという、100mくらいの(日本最短ではないでしょうか)歩道を歩くかたちの(警察の方などもいない)パレードでしたが、パレード隊列と伴走する車から音楽やマイク・アナウンスが流れていて、特に歩道橋の階段を降りてくるシーンは音楽とも相まって、とても感動的でした。
ゲイカップルと思われるお二人や、手作りのフラッグを持って歩いていた方たち、阿波おどりをしながら歩いていた方、お子さん連れの方、車椅子ユーザーの方、実に多様でカラフルな方たちが参加していました。
広場に戻ってきた後、再び長坂さんや「レインボーとくしまの会」の方から、また東ちづるさんからもご挨拶があり、14時からの講演会でまたお会いしましょうということで、解散となりました。
徳島新聞にも掲載されたように、初回にして約150名が参加しました。スゴいことです。
講演会がメインということで時間の制約もあったでしょうし、あまり遠出せず、駅前を一周するごく短いコースを歩くパレードになったのではないかと思いますが、(地方では駅前をちょっと離れると人がほとんどいない…ということも往々にしてありますので)歩道橋の上からレインボーフラッグを振るという、出向いて行って人がいないのなら人が来る場所でアピールしようという「コペルニクス的転回」的な発想の転換が素晴らしいと思いました。それに、まずは徳島の街でパレードをやるということ自体にも大きな意味があると感じました。実際、徳島出身で、帰省を兼ねて今回のパレードに参加したというゲイの方も「地元でこのようなパレードと講演会が開催されたこと、本当に感慨深いです」と語っていました。
講演会『ダイバーシティを考える会』
14時からホテルクレメントという、徳島市でも随一と思われる高級感あふれるホテルの大ホールで『ダイバーシティを考える会』が催されました。定員を超える115名の方が集まり、市や県の議員さんなども多数来場していました。
最初に、「レインボーとくしまの会」を代表して長坂さんがご挨拶しました。12年間、同性のパートナーとつきあっています、7年前にパートナーが緊急入院したものの、手術の同意書にサインすることもできませんでした、公的機関が同性カップルを家族として認める制度が自治体で広がり始めたものの、徳島では一向に実現せず、2019年、自分がやらないと保守的な徳島は変わらないと思い、メディアに出て訴える決意をし、鳴門教育大の葛西教授らとも連携し、「レインボーとくしまの会」を立ち上げ、啓発や陳情・請願を行ない、今では9自治体で実現しました、しかし、県のどこに住んでいてもパートナーシップ・ファミリーシップ制度が利用できるようになってほしいとの思いで、パレードとこの会を企画、27もの企業から賛助をいただけたことに感謝します、というお話でした。
東ちづるさんの基調講演は、とても素晴らしいお話でした。30年前に報道番組の司会でタレント活動を始めたとき、ディレクターさんが「報道番組は困った人のためにある」と語った言葉をずっと胸に抱いてきた、2011年の震災で、車椅子の人が避難所に入れない、自閉症の子がパニックに陥ると周囲の人に「うるさい」と言われる、聞こえない人がアナウンスに気づかず物資を受け取れない、足手まといにならないようにと冷たい場所で過ごし、病気になる人、トランスジェンダーの方が自認性を尊重してもらえないなど、マイノリティの人が追い詰められる状況を知って、日本の縮図だと感じた、「まぜこぜ」の多様性をみんなが認識しないと支え合うことができないと痛烈に感じ、一般社団法人「Get in touch」を立ち上げたと話しはじめ、障がいを持つ方だけでなく、LGBTQのことにも取り組み、映画『私はワタシ ~over the rainbow~』や啓発DVDを製作したことを紹介しました(もちろん、「月夜のからくりハウス」や「MAZEKOZEアイランドツアー」の紹介もありました)
オランダに取材に行った際、現地の方に誘われて同性結婚式に参加し、目から鱗が落ちる思いだった、式に参加した行政の方が「テーブルは、それぞれ違うかたちの脚で板を支えている」と話していたのが素敵だった、同性婚への反対の運動も予想されたが、何もなく、ただ幸せな人が増えただけだった、これは人権だよね、と思った、というお話も素敵でした。
私も昔だったら同性愛者をネタにする番組で笑っていたかもしれないけど、社会は着実にアップデートされている、ある人は「同性カップルも自由に一緒に住めばいいじゃないですか」と言ったけど、だからと言って制度で守られなくていいということにはならないよね、選択の自由がないことによる生きづらさを知ってほしい、日本も人権先進国にならなくていけない、ゆるく広くつながることで日本社会が変わっていくことを願っている、という、いろんな観客の心に響くような、とても親しみやすくて素敵なお話でした。
休憩時間をはさみ、パネルトークが行なわれました。東ちづるさんと、SAG徳島代表で「レインボーとくしまの会」副代表でもある鳴門教育大の葛西真記子教授(鳴門教育大では2年生全員がジェンダー・セクシュアリティ教育の授業を受けるそう。素晴らしいことです)、そして徳島県の勝野美江副知事が登壇しました。
勝野副知事は昨年11月まで内閣官房東京オリ・パラ推進本部事務局企画・推進統括官を務めていて、LGBTQのことにも取り組んでいた方でした(調達コードのことにも携わっていたそうです)
東さんが勝野副知事に、「これからは徳島県でも人権のことに取り組まないと。県で制度を導入することは考えていないのですか?」と尋ねると、勝野副知事は、「県内9市町で導入されていますが、県はまだで、残念と思う方も多いのは承知しています。ですが、まず理解してもらう、啓発しているという段階です。条例を制定するためには、検討会を設け、案を作り、パブコメを実施し、県議会にかけ…というハードルがあります。多くの県民から要望があるということが伝われば動いていくと思います」と答えました。東さんは「東京都でも条例で制度が11月から始まり、ハードルが下がったと思います。理解がないとおっしゃいますが、反対の声はあるのでしょうか」と尋ね、勝野副知事は、「私も周囲で差別的発言を見聞きすることがあり、まだまだ努力が足りないと感じます」と答えました。さらに葛西教授が「今日、パレードしましたが、反対した人はいませんでしたよね。県民はすでに理解しているのではないでしょうか」と聞くと、勝野副知事は「今日のこの会がスタートだと思います。知事にこのような要望があったということを伝えます」と語りました。
徳島のプライドウィークエンドを振り返って
講演会では、勝野副知事が県としての制度導入を求める要望が上がっていることを知事に伝えるとおっしゃってくださり、また、パレードには地元のテレビ局なども取材に来ていたので、きっとメディアを通じて広く認知されることと思います(そういう意味でも、著名なタレントである東ちづるさんがパレードの先頭に立ってくださったことはありがたいと思います)。近い将来、必ず県としての制度導入が実現することと信じます。
今回のプライドイベントをやり終えて、いかがでしたか?と長坂さんにお聞きしたところ、このようなコメントをいただきましたので、ご紹介します。
「徳島でパートナーシップ制度を作るために2019年9月に当事者支援者が100人集まりレインボーとくしまの会を作りました。3周年を記念して徳島で初めてプライドパレード&東ちづるさんを招いてダイバーシティを考える会として講演会を開催できました。2019年当時は中四国地方に県庁所在地にもパートナーシップ制度はなく制度導入は難しいと当事者も思ってましたが、何回も議会などいろいろな自治体などに足を運び、必要性を訴えてきました。2020年4月に徳島市にパートナーシップ制度が導入、今現在7市2町で導入してます。田舎でLGBTQ+の方は生きづらさがあって登校拒否や自殺などいろいろな問題があるため、制度導入以外にも学校や自治体などで人権講演を鳴門教育大学の葛西教授と一緒に当事者の声として講演させていただいてます。誰もがありのままで暮らせる徳島に少しでもなればと思ってます。これからは、徳島なんで「まぜこぜの渦」になれるように活動していきます。応援、よろしくお願いします。 レインボーとくしまの会代表 長坂航」
長坂さんという地元でLGBTQのバーを経営している方がメディアに顔出しで登場し、徳島での制度実現を求めて活動していたことをYahoo!のニュースなどで見ていて、とても感銘を受けていたので、今回、長坂さんに直にお会いでき、徳島初のプライドに参加できて、とてもよかったです。
これまで全く縁がなかった街ではありますが、徳島のコミュニティのみなさんはとても温かいと感じましたし(沖縄に似たものを感じました)、長坂さんだけでなく、SAG徳島の方をはじめアライの方などもたくさん協働してくださっていることも素晴らしいと感じました。前夜祭のドラァグクイーン・パーティから日曜のパレード&講演会まで参加でき、たった1泊(滞在時間約24時間)なのに、とても充実した体験ができました。
長坂さんは講演会で、「制度もなく、生きづらい徳島を離れ、移住することも考えたけれども、家族や地元の方たちのことを思うと、それはできなかった」と語っていました。そういう思いで地元でLGBTQの居場所となるようなお店を経営し、コロナ禍で大変な思いをしながらも、頑張って続けてこられました。バー「Bitch」という地元のLGBTQ+Allyの方たちの貴重な拠り所となっている本当に素敵なお店が、これからも末永く続いていき、徳島のコミュニティがさらに発展していくことを祈ります。
みなさんも、もし徳島を訪れる機会があれば、ぜひ「Bitch」に行ってみてください(ちなみに隣の「阿弥」というお店はご飯が食べられるダイニングバーで、こちらも長坂さんのお店です)
ゲイミックスバー「Bitch」
徳島市秋田町2-16ヴィゴラスビル2階
営業時間:20時〜2時
定休日:日曜日
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