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特集:多様な当事者のリアリティに触れられる多彩なLGBTQ映画祭
8月19日〜22日に「トランスジェンダー映画祭2022夏」がオンライン開催されるほか、9月には大阪・京都で「関西クィア映画祭」、札幌で「札幌LGBTQ映画祭2022」が開催されます。LGBTQのリアリティに触れる絶好の機会となりますので、ぜひご参加ください。
7月には新宿と表参道で「第30回レインボー・リール東京」が開催され、内外の優れたLGBTQ関連映画10作品が上映されました。今回の特集では、8月19日〜22日にオンライン開催される「トランスジェンダー映画祭2022夏」のほか、9月に大阪・京都で開催される「関西クィア映画祭」、9月11日に札幌で初開催される「札幌LGBTQ映画祭2022」などの情報をお伝えします。LGBTQのリアリティに触れる絶好の機会となりますし、札幌ではかずえちゃんや道内の当事者の方たちが出演するトークショーなどもお楽しみいただけますので、ご家族やご友人とお誘い合わせのうえ、ぜひご参加いただければ幸いです。
◆トランスジェンダー映画祭2022夏
「昨今LGBTについて語られる機会は増えたけど、トランスジェンダーの経験について、みんなどれくらい知ってるんだろう。いまだにステレオタイプを押し付ける人もいるし、差別や偏見もある。当事者にとっても、のびのびと自分たちの体験を語ったり、アイデンティティを模索できたりする場面はまだまだ少ない」ということで、もっとたくさんのトランスジェンダーの人たちの姿を見たり、話しているところを聞いたりできる機会として、企画された映画祭です。当事者+アライの実行委員会が主催していて、トランスジェンダーの人たちが直面する差別との闘いや、コミュニティの愛、トランスジェンダーの子を持つ親たちの支援や闘いなどを描く海外の名作が上映されます。トランスジェンダー(やその家族)を取り巻く状況をリアルに感じとることができる、またとない機会になるはずです。
トランスジェンダー映画祭2022夏
期間:8月19日(金)14時〜22日(月)16時
配信方法:vimeo
チケットはこちらから
<上映作品>
ゲームフェイス
UFC(総合格闘技チャンピオンシップ)の女子王座を狙う総合格闘家のファロン・フォックスは、トランスジェンダーであることを理由に「女子リーグで闘うのはフェアじゃない」とバッシングを受けてしまいます。高校バスケ選手のテレンスは、セクシュアリティを理由に、長年所属したチームのレギュラーから外された経験があります。東京五輪でも話題となった、スポーツ界におけるLGBTQの「闘い」を追うドキュメンタリー作品です。
『ゲームフェイス』
2015年/ベルギー・米国/95分/監督:マイケル・トーマス
アロハの心をうたい継ぐ者
太古ハワイ王国では、男性と女性、そして男性と女性の両方を持ち合わせるマフが、自然と調和し暮らしていましたが、植民地支配によってハワイ文化は抑圧され、マフも抑圧や差別の対象となってしまいます。現代のハワイでクムヒナ(ヒナ先生)は、マフとして、植民地支配で奪われたハワイ文化の心を若い世代に受け継いでいます。尊敬される先生、誇り高いハワイ人マフ、現代西洋社会を生きるトランス女性。そんなクムヒナの生きるハワイを描いたドキュメンタリー作品です。
『アロハの心をうたい継ぐ者』
2014年/米国(ハワイ)/77分/監督 :ディーン・ハマー、ジョー・ウィルソン
※太古ハワイ王国の言い伝えを描いた短編アニメ『カパエマフの魔法石』も同時配信
Major(メジャーさん)!
1969年6月、LGBTQ解放運動のブレイクスルーとなる「ストーンウォール」暴動のまっただなかにいたトランスジェンダーのメジャーさん。78歳になった今でも投獄されたトランスジェンダーたちに手紙を書き続けます。家族から見放された人たちを娘たちと呼び、数えきれない人たちからママと慕われる彼女のたどった人生とは? トランスコミュニティの愛と闘いを描く至極のドキュメンタリー作品です。
『Major(メジャーさん)!』
2015年/米国/91分/監督:Annalise Ophelian
最も危険な年
トランスジェンダーの人口は1%未満にすぎません。マジョリティの無知は、しばしば少数派への偏見や不安に結びついてきました。2016年米国ワシントン州では、トランスジェンダーのトイレ利用を制限する法案が持ち上がり、「出生時の性別のトイレを使うべきだ」とする主張に対し、トランスジェンダーの子を持つ親たちが立ち上がります。差別と戦う武器は、自分たちのありのままの物語を語ること。日本でも広まりつつあるトランスヘイトの問題を考えるうえで必見のドキュメンタリー作品です。
『最も危険な年』
2018年/米国/90分/監督:Vlada Knowlton
◆ひろしまアニメーションシーズン2022
上映&トーク「ジェンダー・アイデンティティとセクシュアリティ」
近年、質的にも量的にもダイナミックな動きのあるクィア・アニメーション。ひろしまアニメーションシーズン2022では、LGBTQIA+や女性にまつわる作品を通して、そのインディペンデントで多様な意識や世界をご覧いただこうとの趣旨で、上映&トーク「ジェンダー・アイデンティティとセクシュアリティ」を行ないます。『クローゼットへ』『ティーガン&サラ』『フォー・ザー・ベスト』『唇のひび割れ』『はなそっか?』『自分のストーリー』『アドラブル』『アイ・ライク・ガールズ』『パープルボーイ』『まだみてる?』『ときには無人島で』『悲しき恋人たち』『ふたりの間に』という13本の短編が上映され、上映後には、クィア/フェミニズムの研究者としてご活躍されている東京大学大学院教授の清水晶子さんをお招きし、トークセッションも行なわれます。
ひろしまアニメーションシーズン2022
上映&トーク「ジェンダー・アイデンティティとセクシュアリティ」
日時:8月19日(金)12:10-
会場:JMSアステールプラザ中ホール
◆関西クィア映画祭
東京の次に長い歴史を誇る関西クィア映画祭。大阪と京都の2会場で上映されるのが特徴で、今年は14ヵ国から集められた計28作品もの映画が上映されます。今年はノンバイナリーをテーマとしたミニ特集が組まれるほか(ノンバイナリーの作品はとても少ないので、非常に貴重です)、日本で初めて公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画『片袖の魚』などの日本作品、レインボー・リール東京でも上映されたトランスジェンダー作品『ノー・オーディナリー・マン』『アグネスを語ること』などの海外長編、海外短編集、国内作品コンペティション作品などが上映されます。
関西クィア映画祭
◎大阪
日程:9月2日(金)〜9月8日(木)
会場:シネマート心斎橋
◎京都
日程:9月23日(金祝)〜25日(日) ※9月24日(土)はオールナイト上映あり
会場:ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川
<上映作品>
◎ノンバイナリー・ミニ特集
昨年、宇多田ヒカルさんが名乗ったことで人口に膾炙した感のあるノンバイナリー(日本では「Xジェンダー」とも)ですが、ひとくちにノンバイナリーと言っても、身体への医療的措置を望むかどうか、どのような服を着るか、自称は何か、代名詞は何がいいかなど、人によってありようは様々です。今回のミニ特集は、そんなノンバイナリー(Xジェンダー)の方たちのリアリティに触れられるような企画として組まれました。以下の2作品が上映されます。
ここにある美しさ
米ニューヨーク州の小さな町に住む、ノンバイナリー、トランスジェンダーを自認するミレニアル世代の9人が、自身のジェンダーのあり方と自分らしい生き方を飾らない言葉で語ります。わかりやすくカテゴライズし、単純化したがる社会に対して、ノンバイナリーと自認していても各々の性のあり方や体との向き合い方、髪型や服を通して自分を表現する方法も、そして興味関心も全く違うということを、一人ひとりの語りを通して今一度気づかせてくれる短編作品です。
『ここにある美しさ』
2021年/米国/17分/監督:Leah Waring Byck
大阪会場9月8日(木)19:30-、京都会場9月23日(金祝)14:55-
アンバー、いつまでも
「友達と無人島にいたら、そこには規範も何もない」と話すアンバーは、ストックホルムで暮らす17歳のノンバイナリー。こんなに早く自身のジェンダーに気づくことができたのは、先にカムアウトした親友のセバスチャンのおかげ。でも、あることが理由で疎遠になってしまい、どうやって折り合いをつけようかと悩みます。アンバーは人間関係が揺れ動くにつれ、頭をバリカンで剃ったり、ウィッグを被ったり、ブリーチしたり、染めたり、髪型や髪色、メイクも自由に変えていきます。「私の見た目は私が決める」という規範に抗う意志を表しているかのようです。若者の青春の3年間を切り取ったドキュメンタリーです。
『アンバー、いつまでも』
2020年/スウェーデン/74分/監督:Lia Hietala、Hannah Reinikainen
大阪会場9月8日(木)19:30-、京都会場9月23日(金祝)14:55-、京都会場オールナイト9月24日(土)23:00-
◎日本作品
今年は日本作品を長編短編あわせて8作品上映します(これとは別に、コンペに参加する日本作品も別途上映されます)
片袖の魚
日本で初めて、公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画『片袖の魚』。自分を不完全な存在だと思い込み、自信を持てないまま社会生活を送るひとりのトランス女性が、新たな一歩を踏み出そうとする――そんなささやかな瞬間の物語を、文月悠光さんの詩を原案として、国内外の映画祭で高い評価を得ている東海林毅監督が映画。主演はモデルとして活躍するイシヅカユウさんです。
2021年から上映が始まり、たいへんな評判を呼び、全国各地を巡回していますが、今回、関西クィア映画祭でも上映されることになりました。
『片袖の魚』
2021年/日本/34分/監督:東海林毅
大阪会場9月2日(金)19:45-、京都会場9月24日(土)19:00-
世界は僕らに気づかない
国内外の映画祭で受賞経験のある飯塚花笑監督(トランスジェンダーの方です)による、名作『フタリノセカイ』に続く最新作は、監督が自身の体験に基づいて書いたオリジナル脚本を、2021年に大ヒットした映画『東京リベンジャーズ』に出演した堀家一希主演で映画化した作品です。
群馬県太田市に住む高校生の純悟は、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親を持ち、父親のことは何も聞かされておらず、ただ毎月振り込まれる養育費だけが父親とのつなが利です。純悟には恋人の優助がいますが、優助から同性パートナーシップ証明の登録を望まれても、自分の生い立ちが引け目となり、なかなか決断に踏み込めずにいます。そんなある日、母親が再婚したいと、新しい恋人を家に連れて来て、見知らぬ男と一緒に暮らすことを嫌がる純悟は、実の父親を探すことに…というストーリーです。
『世界は僕らに気づかない』
2022年/日本/112分/監督:飯塚花笑
大阪会場9月3日(土)19:05-、京都会場9月23日(金祝)17:35-、京都会場オールナイト9月24日(土)23:00-
◎海外長編
今年の海外長編作品は6作品。関西クィア映画祭でしか観られない作品もあります。
ノー・オーディナリー・マン
死後にトランス男性だったことがわかり、センセーショナルに取り上げられたジャズミュージシャン、ビリー・ティプトンのことを、今を生きるトランス男性たちが振り返り、その人生を再構築していくドキュメンタリー映画です。ビリーの息子であり「ビリーを知る最後の人物」であるビリーJr.の元をトランス男性の方が訪ね、「ビリー・ティプトンのおかげで救われた当事者がたくさんいる」と伝えられ、「父のことをそんなふうに称えてくれてとてもうれしい」と語るシーンが感動的でした(レビューはこちら)。カナダのLGBTQ映画祭「Inside Out Film and Video Festival」でベスト・カナダ映画賞に輝いています。
『ノー・オーディナリー・マン』
2020年/カナダ/83分/監督:アシュリン・チンイー、チェイス・ジョイント
アグネスを語ること
『ノー・オーディナリー・マン』のチェイス・ジョイント監督の短編『アグネス〜過去から今へ〜』を長編化した作品で、50年以上前のトランスジェンダーへのインタビューの記録に基づいた、ドラマ仕立てな部分もあるドキュメンタリー映画です。自身もトランス女性である歴史研究者のJules Gill-Petersonが、米国で初めて性別適合手術を受けたクリスティン・ジョーゲンセンは(白人のトランス女性として)スター的な扱いを受けたのに、ジョージアという黒人のトランス女性はひどい扱いを受けたと指摘し、社会的マイノリティの当事者がメディアに出ることのアンビバレントさを鋭く追及するコメントを発していて、唸らせるものがありました。非常に複雑なテーマを内包する作品です(レビューはこちら)。サンダンス映画祭で観客賞と「the Innovator Prize in the NEXT program」という賞を受賞しています。
『アグネスを語ること』
2022年/カナダ・米国/75分/監督:チェイス・ジョイント
大阪会場9月7日(水)19:30-、京都会場9月23日(金祝)12:45-
札幌LGBTQ映画祭2022
北海道、札幌にLGBTQ ALLYの輪を広げたい!との願いで結成されたなるべさ!ALLYさっぽろというボランティアのアライチームが企画した映画祭です。映画上映だけでなく、YouTuberのかずえちゃんと地元の当事者の方たちによるトークショーも行なわれます。この映画祭は、現在札幌で行なわれている「結婚の自由をすべての人に」訴訟と、元道職員SOGIハラ訴訟を応援しているそうです。
札幌LGBTQ映画祭2022
日時:2022年9月11日(日)
会場:サツゲキ(札幌市中央区南2条西5丁目6-1 狸小路5丁目内)
主催:なるべさ!ALLY
後援(順不同・敬称略):札幌市、さっぽろレインボープライド、公益社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に、元道職員SOGIハラ訴訟 原告 佐々木カヲル(社会福祉士)、元道職員SOGIハラ訴訟弁護団、(株)ブラッシュ・アップ、瀟洒珈房 月織堂、かず部屋
第一部 12:30-
メイクアップアーティストの僧侶・西村宏堂さん、ドラァグクイーンのビビー・ジェローデルさんら9名のLGBTQの姿を追ったドキュメンタリー映画『であること』(監督:和田萌)、『カランコエの花』(監督:中川駿)が上映されます。上映後のトークショーには、1996年の札幌のパレードの立ち上げに関わったレジェンドであり、NPO法人L-portの設立者でもあるレズビアンの方が出演します。
第2部 17:00-
日本映画界の新しい時代の幕開けを告げるような名作ゲイ映画であり、宮沢氷魚さんが主演(ゲイ役)を務めたことでも話題になった作品『his』(監督:今泉力哉)と、ゲイカップルの結婚式披露宴ムービーが上映されます。その後、北見市でパートナーシップ宣誓をしたゲイカップルのトークショーが行なわれます。
- INDEX
- 特集:11月20日は国際トランスジェンダー追悼の日
- レポート:金沢プライドウィーク2021
- 特集:11月に観たいLGBTQ映画・ドラマ
- 特集:10月はLGBTQ映画が豊作です
- 【インタビュー】ゲイカップルと地下鉄にいた赤ちゃんが家族になるまでの本当にあった奇跡の物語『ぼくらのサブウェイ·ベイビー』の翻訳出版を目指す北丸雄二さん
- 特集:大阪観光局が発足させた新プロジェクト「OPEN ARMS PROJECT」
- 【PRIDE月間企画】トランス女性を支援したいというアライとしての心意気――映画『片袖の魚』東海林毅監督インタビュー
- レポート:足立レインボー映画祭
- ゲイの劇団フライングステージが子ども向けのお芝居を上演
- 雨上がりの渋谷に虹が出ました:「0606LGBT新法制定を求めるハチ公前連帯集会」レポート