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特集:11月に観たいLGBTQ映画・ドラマ

今月も良質なLGBTQ関連の映画がたくさん上映・放送されます。LGBTQのリアリティに触れることができる映画やドラマをぜひご覧ください。

(『I Am Here ー私たちはともに生きているー』より)

 この11月も、福岡や福井でLGBTQの映画祭が開催されるほか、『I Am Here ー私たちはともに生きているー』の無料上映&トークイベントや『ハーヴェイ・ミルク』のメモリアル上映が行なわれたり、トランスジェンダーの女の子の姿を生き生きと映し出した『リトル・ガール』の公開も控えていて、良質なLGBTQ関連作品をたくさん観ることができそうです。11月に上映・放送・配信される映画やドラマの情報をまとめてお伝えいたします。(文・後藤純一)
(最終更新日:11月3日)



 
11月3日公開
劇場版『きのう何食べた?』

 ゲイカップルの日常生活(食卓を囲む姿を中心に)や周囲の方とのあれこれをほのぼのと描き、原作のファンやBL好きな方たちだけでなくゲイの方たちからも熱い支持を得たTVドラマ『きのう何食べた?』。映画化が発表されて期待が高まっていた作品が、ついに公開されました。初日をご覧になったゲイの方からもさっそく「よかった」「泣けた」との声が届いています。 日本の商業映画でみなさんにオススメできる作品は本当に貴重です。かなり長い期間上映されることと思いますので、お時間ある時に、何かのついでに、ご覧いただければと思います。

<あらすじ>
街の小さな法律事務所で働く雇われ弁護士・筧史朗(シロさん)とその恋人で美容師・矢吹賢二(ケンジ)。同居する二人にとって、食卓を挟みながら取る夕食の時間は、日々の出来事や想いを語り合う大切なひとときなのだ。ある日、シロさんの提案で、ケンジの誕生日プレゼントとして「京都旅行」に行くことになる! ケンジは夢のような出来事に大はしゃぎし、満喫していたが、旅行中にシロさんからショックな話を切り出される。そしてこの京都旅行をきっかけに、二人はお互いに心の内を明かすことができなくなってしまう…。そんななか、シロさんが残業を終え商店街を歩いていると、偶然、ケンジを目撃する。その横には見知らぬ若いイケメンの青年が…なんだか怪しい二人の姿! 胸がざわつくシロさんだったが、最近なんだか秘密を抱えている様子のケンジに、その青年が誰なのか聞くことすらできない。さらに小日向さんから(ジルベール)わたるがいなくなったと相談を受け…。穏やかであたたかい毎日が一変。当たり前だったはずの平凡でゆっくりとした日常を取り戻すことはできるのか――

劇場版『きのう何食べた?』
2021年/日本/原作:よしながふみ「きのう何食べた?」(講談社『モーニング』連載中)/監督:中江和仁/脚本:安達奈緒子/出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、田中美佐子、田山涼成、梶芽衣子、松村北斗(SixTONES)ほか
11月3日(水祝)より全国ロードショー
(C)2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 (C)よしながふみ/講談社





11月12日公開
ボストン市庁舎

 予告編に同性結婚式のシーンが登場する映画『ボストン市庁舎』は、『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』のフレデリック・ワイズマン監督の新作です。米マサチューセッツ州のボストンは、多様な人・文化が共存する大都市であり、ワイズマンが生まれ、現在も暮らす街でもあります(マサチューセッツ州は米国で初めて同性婚を承認した州です)。カメラは市庁舎の中へ入り込み、市役所の人々とともに街のあちこちへと動き、警察、消防、保険衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録、ホームレスの人々の支援から同性婚の承認まで数百種類ものサービスを提供する、知られざる市役所の仕事の舞台裏を映し出します。市民の幸せのため奮闘するウォルシュ市長と市役所職員たちの姿から浮かび上がってくるものとは? 行政(官)とは本来どういうもので、何をすべきなのかということを生き生きと学べる映画は、同性婚をはじめとするLGBTQイシューの実現を考えるとき、きっとインスピレーションを与えてくれると思います。

ボストン市庁舎
原題:City Hall
2020年/アメリカ/272分/監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン
11月12日(金)より、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
(c)2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved





11月13日 福岡
福岡レインボー映画祭2021
 
 福岡レインボー映画祭は九州レインボープライドの時期に合わせて地元のNPO「Rainbow Soup」が開催するようになったLGBTQの映画祭ですが、なんと昨年からは福岡市が主催するようになりました(全国初じゃないでしょうか)。「性的マイノリティの当事者は、民間の調査によると、11人に1人はいると言われています。あなたの周りにいないのではなく、当事者が社会からの偏見や差別を怖れて、カミングアウトしない・できないでいるのかもしれません。性的マイノリティをテーマにした映画を通じて、多様性を認め合い、誰もが暮らしやすいまちづくりのために自分たちに何ができるのか、一緒に考えてみませんか」という趣旨で、中国の同性愛者のカミングアウトの困難に迫った東京ドキュメンタリー映画祭2019短編部門グランプリ受賞作『出櫃(カミングアウト) -中国LGBTの叫び』と、今年のレインボー・リール東京でも上映された『であること』の2作品が上映されます。

福岡レインボー映画祭2021
日時:2021年11月13日(土) 13:30-17:40
会場:福岡市市民福祉プラザ(ふくふくプラザ) ふくふくホール(福岡市中央区荒戸3-3-39)
定員:100名(先着順) ※当日、定員に満たない場合は入場可
無料
申込みはこちら
主催:福岡市
運営:NPO法人 Rainbow Soup





11月18日、20日 
未来は私たちのもの

 11月18日〜21日、渋谷ユーロライブにて開催される「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」の目玉作品です。1994年生まれのイラン系ドイツ人のファラズ・シャリアット監督による自伝的デビュー作で、ドイツにおける移民系の青年の成長とLGBTQカルチャーを繊細かつポップに描き、多様性をパワフルに肯定している作品です。2020年のベルリン国際映画祭でテディ賞(最優秀クィア映画賞)を2部門で受賞しました。

<あらすじ>
イラン系移民の両親を持つミレニアル世代の青年パーヴィスは、両親がドイツで築いた安定した快適な環境で育つ。出会い系アプリのデート、レイヴやパーティで暇つぶしをしながら、地方暮らしの退屈さを紛らわせている。ある日、万引きがバレて、社会奉仕活動を命じられたパーヴィスは、難民施設で通訳として働くことになり、そこでイランからやってきた兄弟バナフシェとアモンに出会う。しかし、3人の間に微妙なバランス関係が生まれ、ドイツにおけるそれぞれの未来が平等でないことを、彼らは次第に気づき始める…。

未来は私たちのもの
原題:Futur Drei
2020年/92分/ドイツ/監督:ファラズ・シャリアット/出演:ベンヤミン・ラジャブプル、バナフシェ・フールマズディ、アイディン・ジャラリー、マリアム・ザレーほか
「ドイツ映画祭 HORIZONTE 2021」にて上映







11月19日公開
リトル・ガール

 トランスジェンダーの女の子の姿を生き生きと映し出し、ベルリン国際映画祭、モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭などを席巻、2020年の東京国際映画祭でも上映されたフランスのドキュメンタリー映画です。予告映像は、女の子の衣装を身につけたくても許可がおりないため、男の子の衣装のままでバレエのレッスンに参加するサシャの姿から始まります。まだ物心がついていない頃、「女の子になりたい」と言ったサシャ。母親が「無理よ」と答えると、サシャは泣き出したそうです。「夢も人生も砕かれた絶望の涙でした」と母親は振り返ります。姉も、サシャが学校では女の子としての登録が認められないうえに“男子”からも“女子”からも疎外され、通学にも男子用の服装の着用を学校から強要されていることに「性別を選べず生まれただけなのに、学校はサシャを否定してる」「納得できない」と憤ります。社会や学校からの様々な理不尽に直面しながら、ただ「女の子になりたい」というサシャの願いを叶えるために奔走し、ともに闘っていく家族の姿を捉える予告映像は「あなたは独りじゃない」という言葉に微笑むサシャの姿で結ばれています。
 この映画の監督を務めたのは、これまでも社会の周縁で生きる人々に光をあてた作品を撮り続け、カンヌやベルリンを始め、世界中の映画祭で高く評価されているセバスチャン・リフシッツ。トランスジェンダーのアイデンティが幼少期から自覚されるということについて取材していた過程で、サシャの母親カリーヌに出会い、この作品が誕生したそうです。

リトル・ガール
原題:Petite fille
2020年/フランス/85分/監督:セバスチャン・リフシッツ
(C)AGAT FILMS & CIE - ARTE France - Final Cut For real - 2020





11月21日 福井
福井LGBTQ映画祭2021

 福井出身のユーチューバーとして有名なかずえちゃんが、地元・福井で初めてLGBTQ映画祭を開催します。「LGBTQについて知り考えることは「性の多様性」にとどまらず、この世界に様々な個性を持って生まれてくる私たち一人一人の違いについて、想像をめぐらすことでもあります。LGBTQの人にとって住みやすい街は、より多くの人が 自分らしく暮らせる、豊かな街でもあると思います。私たちの福井を住みたい街、そしてずっと暮らし続けたい街にしていくために、本映画祭がともに考えるきっかけになれば幸いです」との趣旨で、名作『his』、『カランコエの花』、『I Am Here ー私たちはともに生きているー』の3作品が上映されます。

福井LGBTQ映画祭2021
日時:11月21日(日)午前の部 10:15-13:00 / 午後の部 14:30-17:00
会場:テアトルサンク(スクリーン1) 福井市中央1-8−17
チケット:1000円





11月21日放送
ドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』

 2019年にオーストラリアで製作され、中学に上がるのを機に本来の自分のジェンダーである女の子として登校することを決意するハナを描いたドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』。家族の全面的なサポートを得られ、本当の自分として登校するのですが、学校にはハナを快く思わないいじめっ子がいて…一方で、ハナの味方になってくれる友達もたくさんいて。ハナ自身も葛藤しながら、成長していきます。名作です。主演のイーヴィー・マクドナルドさんもリアルなトランス女子です(素晴らしいことです)。11月20日(土)の深夜に全4話が一気に再放送されますので、まだご覧になっていない方はこの機会にぜひ!
 
<あらすじ>
ハナはトランスジェンダー。小学校まではトーマスという名前で男の子として生活していた。日本の中学校にあたる7年生に進学するのを機に、ハナとして生きる決意をした。学校はハナを女の子として受け入れるというけれど「トイレは“だれでもトイレ”を使うこと」などの制約付き。ハナ自身も「同級生に本当のことを知られたらどうしよう?」と不安を抱えながら登校する。友達もできてすべてが順調に進んでいたとき、なんと小学校時代のいじめっ子が同じ学校に! ハナは自分らしい学校生活を送れるだろうか…?

ドラマ『ファースト・デイ わたしはハナ!』<全4話>
Eテレ
11月21日(日)0:30〜 ※20日(土)深夜です





11月24日配信
I Am Here ー私たちはともに生きているー

 今を生きる日本のトランスジェンダーのリアリティを映し出した、今世紀初のトランスジェンダー当事者ドキュメンタリー映画です。現行法の問題点、就職や職場での難しさ、日常生活で直面する困難、厳しい現実を浮き彫りにしつつも、とても生き生きとしたトランスジェンダーの方たちの姿に魅了され、その豊かさや、コミュニティ感、笑い、感動もあり、観てよかったと思える作品です。監督したのはトランス男性で「カラフル@はーと」や「TRANSGENDER JAPAN」の運営にも携わっている浅沼智也さん。『金八先生』の鶴本直(上戸彩さんが演じたトランス男子)のモデルとなったレジェンド、虎井まさ衛さん、トランスジェンダーとして初めて大学講師となった研究者の三橋順子さん(著書『女装と日本人』など)、日本で初めてトランスジェンダーのホームページを開設したアクティヴィストの畑野とまとさん、杉山文野さん、大阪のコミュニティセンター「dista」でHIV予防啓発に携わっている宮田りりぃさんなど、多彩な当事者の方々が出演しています。東京ドキュメンタリー映画祭2020・短編部門グランプリ受賞作です。
 この「I Am Here ー私たちはともに生きているー」の上映と、浅沼監督と三橋先生の対談がセットになったオンラインイベントが11月24日に無料で開催されます。三重県が主催、弊社が協力しています。ぜひご参加ください。

トランスジェンダーのドキュメンタリー映画から知る
「I Am Here ー私たちはともに生きているー」上映&トーク
日時:2021年11月24日(水) 18:30-20:00
Zoomにてオンライン配信
無料
出演:浅沼智也、三橋順子
詳細・お申込みはこちら





11月26日 東京
ハーヴェイ・ミルク

 LGBTQの歴史についてアライの方に知っておいてほしい出来事をいくつか挙げるとしたら?と聞かれたら、おそらくほとんどの方がストーンウォール暴動とハーヴェイ・ミルクのことを挙げると思います。ドキュメンタリー映画『ハーヴェイ・ミルク』は、LGBTQ+Allyにとっての必須履修科目のような作品です。
  『ハーヴェイ・ミルク』は1977年、3度目の挑戦でサンフランシスコ市議会委員に当選し、全米で初めて公職に就いたオープンリー・ゲイの人物になったものの、翌年、同僚議員ダン・ホワイトによって暗殺されたという伝説の活動家ハーヴェイ・ミルク(『タイム』誌が選ぶ「20世紀の英雄・象徴的人物100人」選出、大統領自由勲章受章、給油艦にも命名)の生涯を描いたドキュメンタリー映画です。ハーヴェイ・ミルクが議員に当選し、サンフランシスコのパレードを盛大にパワフルに開催しようということからレインボー・フラッグが誕生したということや、カリフォルニア州で同性愛者が教職に就くことを禁じる州法が制定されようとしてミルクがコミュニティの人々とともに闘ったということなど、歴史上の重要な出来事がたくさん記録されています。ハーヴェイ・ミルクのことをあまり詳しく知らないという方は、この機会にぜひご覧ください。
 第57回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品です。監督のロバート・エプスタインは、ジェフリー・フリードマンとともに『セルロイド・クローゼット』や『刑法175条』、2019年のストーンウォール50周年の記念作『State of Pride』など、LGBTQコミュニティにとって重要な作品をたくさん手がけてきた方です(ゲイの方です)
 11月26日からアップリンク吉祥寺でメモリアル上映されます。
 
ハーヴェイ・ミルク
原題:The Times of Harvey Milk
1984年/アメリカ/監督:ロバート・エプスタイン


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