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【インタビュー】ゲイカップルと地下鉄にいた赤ちゃんが家族になるまでの本当にあった奇跡の物語『ぼくらのサブウェイ·ベイビー』の翻訳出版を目指す北丸雄二さん
今から20年も前、ゲイカップルがNYの地下鉄で赤ちゃんを発見し、養子として引き取って育てる決意をしました。この「本当にあった奇跡の物語」の絵本の翻訳出版を目指す北丸雄二さんに、お話をお伺いしました。
テレビ朝日「大下容子 ワイド!スクランブル」や、Webメディア「FINDERS」でも紹介された、本当にあった奇跡の物語――2000年、NYの地下鉄でダニーさんとピートさんのゲイカップルが赤ちゃんを発見します。家庭裁判所の裁判官は二人に養子として育てることを提案、それまで子育てなんて考えていなかった二人は迷った末に、引き取る決意をします。ケヴィンと名付けられた子は好奇心旺盛な少年に育ちます。2011年にはNY州で同性婚が認められ、ダニーさんとピートさんは、あの裁判官に結婚式を挙げてもらいます。ケヴィンは今や大学生になり、数学とコンピュータ·サイエンスを学んでいます。
もともと演劇やアートの仕事に携わっていたピートさんは、自分たちがどうやって家族になったのかを綴った絵本『Our Subway Baby』を出版、文学賞の最終選考に残るなどして、評価を集めました。
この素敵な絵本『Our Subway Baby』を日本でも出版したいと、ジャーナリストの北丸雄二さんとサウザンブックスがクラウドファンディングを立ち上げました。北丸さんは『LGBTヒストリーブック』の翻訳者でもあります。そこで今回、LGBTQの権利回復運動、PRIDEのことや、『ぼくらのサブウェイ·ベイビー』出版への思いについて、お話をお聞きしました。(聞き手:後藤純一)
北丸雄二(きたまるゆうじ)
ジャーナリスト、コラムニスト。中日新聞(東京新聞)NY支局長を経て1996年から独立。長年にわたりNYから日本向けに米政治·文化などのほか、LGBTQ+情報を発信。2018年から拠点を東京に移す。ラジオやネットメディアでのニュース解説の傍ら、『LGBTヒストリーブック』『フロント·ランナー』『完全版 ノーマル·ハート』等の訳書も刊行、ブロードウェイの日本公演版台本『ヘドウィグ&アングリー·インチ』『ボーイズ·イン·ザ·バンド~真夜中のパーティー』『アルターボーイズ』などの翻訳も多数手がける。近刊に日米社会評論『愛と差別と友情とLGBTQ+』。東京新聞毎金曜に時事評論『本音のコラム』連載中。
――北丸さんとはゲイ雑誌『バディ』で「北丸雄二のNY通信」という連載を担当させていただいたのが最初のご縁で。海外のLGBTQのことを本当にたくさん学ばせていただきました。こういうかたちでのインタビューは初めてになるかと思います。今日はよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
――2019年、LGBTの公民権運動(権利回復運動)の歴史をアメリカの子どもたちのためにわかりやすく解説した『Gay & Lesbian History for Kids』という本が、北丸さんの的確な日本語訳を経て、『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』として刊行されました。古代から19世紀までの歴史の概観、1930年代までの「運動のはじまり」、ストーンウォール以前のたくさんの運動のことなども紹介された、まさに歴史的な意義を持つ本だと思います。この本が出版されることになった経緯を教えてください。
1990年の『フロント·ランナー』の翻訳出版から始まって、「LGBT」という言葉が生まれる前からLGBTQ+のことをずっとやってきました。25年間NYに暮らし、2018年に日本に帰ってきたとき、人権問題に関するNYとのあまりのギャップにショックを受けました。相変わらず「保毛尾田保毛男」なんてのがTVで放送されて、人権先進国では信じられないことが行われている。日本に帰ってきたからには、私も通常のジャーナリズム活動のほかにそろそろ腰を据えてこの性的少数者問題の理解ギャップを埋め合わせる作業が必要だなと、何かできないかなと思っていたとき、サウザンブックスから翻訳のお話があって、やりましょう、と。
――なるほど、そうでしたか。この本に関して北丸さんが日本記者クラブでお話された際、1994年のストーンウォール25周年記念のプライドに沸くニューヨークで、国連の方やジャーナリストなど、いろんな日本人の方たち(多くは年輩の方)に「LGBTの取材をしたほうがいいよ」と声をかけたものの、誰一人興味を持ってくれなかった、というお話をされていました。年輩の方はきまって「セックスの話でしょ?」と言う、「趣味」の問題だと捉えられていたと。25年経って、日本もだいぶ変わりましたが、相変わらず「LGBTは生物学上の種の保存の法則に背く」「道徳的に赦されない」「LGBTばかりになったら足立区が滅ぶ」などと言ってしまう人たち(多くは年輩の方)もいて…こうした人たちの誤解を解き、考えをあらためていただくためにはどうしたらよいでしょうか?
94年当時にカムアウトして声を上げてた人って日本ではほとんどいませんでしたよね。そんな社会でも今はいろんな人たちがカムアウトしてそれぞれの分野で声を上げている。一朝一夕には変わらないけど、積み重ねていくと歴史は変わるということが、世界でも日本でも実証されていると思います。
宇多田ヒカルさんがノンバイナリーであるということを語りました。『his』や『片袖の魚』のような映画も生まれています。94年には考えられなかったことです。誤解を解くのは、情報なんです。公の情報を流通させることなんです。
同時に、物事には個人で解決できるものと、社会的にしか解決できないものがあります。人々が自身の言葉で語り、そこから公に向かう言葉を作り上げていく。公の言葉を作っていかないといけない、と思います。
――足立区議の差別発言の騒動のとき、日本中のゲイやレズビアンのカップルたちが幸せそうに写っている写真をSNSに投稿する#私たちはここにいるというムーブメントが起こり、とても感動しました。『ぼくらのサブウェイ・ベイビー』のクラウドファンディングのページで北丸さんが「家族になろうとする努力について」というコラムで書かれているように、海外でも同じようなことがありますよね?
アイルランドで今年、有名な極右活動家で陰謀論者が「私は誰一人として、ゲイであって幸せである人を見たことがないし知りもしない。ゲイという生き方は惨めで、淫らで、暗鬱たるものだ」と述べる動画を投稿しました。それに応える形で、Twitter上に「ええ、私たちはとても"みじめ"で"暗い"生活を送っています」などという皮肉たっぷりなコメントとともに、何とも幸せそうなゲイやレズビアンのカップルの写真があふれました。カップルに挟まれて大きな笑顔の子どもたちの姿もたくさん写っていたのです。
社会運動は真面目で真っ直ぐということも必要だけど、面白くなければ続かないわけで、未来に対する希望はいろんなアイディアがあるといい。日本には日本的なムーブメントがある、穏やかな、まずは理解を、ということにこだわってる人もいるけど、その「日本」ってたかだかここ数十年の「日本」であって、「日本」ってのは長い歴史の中でいろんなものを外から取り入れて劇的に変わってきた国です。これはアイデンティティにも関わる問題ですが、アイデンティティとは「自分が何者であるか」と同時に「何者でありたいか」ということでもある。面白いと思えばどんどんやればいいんですよ。
これらは8月20日刊行の『愛と差別と友情とLGBTQ+』(人々舎)にも書いたことですが、LGBTQ+だけでなくBLMなどの運動でも今、Z世代の発想が活きている感があります。昨年、アメリカのZ世代のK-POPファンが、人種差別への抵抗としてトランプ大統領の集会のネット予約枠を行く気もないのに取り尽くして会場をガラガラにさせたという話もありました。このアイディア、可笑しかったですよね。
――思わず「やるなぁ」「面白い」と言いたくなるようなアイデアでしたね。一方で、「抗議」とか「抵抗」ではない運動のスタイルとして、奇跡的な「本当にあったいい話」に触れ、「幸せ」に共感し、感動するような、ポジティブなメッセージが社会を変えていくということもあると思います。そこで今、『ぼくらのサブウェイ·ベイビー』を出版することの意義についてお聞きしたいと思います。
『ぼくらのサブウェイ·ベイビー』のゲイカップルは、地下鉄で捨てられた赤ちゃんを見つけ、届けたあと、家裁の裁判官に養子として引き取ることを提案され、自分たちは「何者でありたいか」「どういう人間でありたいか」を考えるんですね。アパートだって小さいし、収入面の不安もある、そもそも子どもを育てようと思ったこともなかった、それでもどういうカップルでありたいかを自分たちで選び取り、養子にすることを選択したんです。
東京五輪閉会式の最後に「Chosen Family」という歌が流れました。血のつながりじゃなくて、家族になろうという意志でできあがったファミリーへの讃歌です。意志というのは、言葉であり、パブリックなものへとつながります。かつては結婚できなかった同性愛者たちが、自分たちの意志をもって「何者でありたいか」と行動した結果、結婚もできるようになりました。
世の中には「毒親」のような人もいるし、血のつながりだけでは家族が崩れてしまうこともある。家族が壊れていくような話しか聞こえてこない時代にあって、この本は、もう一度家族を作ろうとする意志を描いています。幸せを自ら作ろうとする努力。友愛のような感情。そんな「Chosen Family」は、一つの希望であり、社会の新しい可能性です。
――一冊の絵本に、そこまでの深いお話が込められているなんて…スゴいですね。日本では同性カップルが子どもを引き取って養子として育てることはできないわけですが(一時的に預かる養育里親は認められていますが)、NYでは裁判官のほうからゲイカップルに「養子、どう?」と提案するというのもスゴいですよね。社会の違いを感じました。
まず、養子縁組というものに対する受け止め方が欧米と日本ではかなり違うんですね。日本では「血のつながり」という共同幻想が強くて、”日本人の血"が流れているかどうか、といった虚妄の言説が依然として力を持っています。そもそもそれって人種主義という非科学的な言論で、人種差別的として淘汰され破綻しています。にもかかわらず、日本語圏の中では差別とも認識されずに流通しているんです。
――ガラパゴス的な。
そうです。先の大戦の時に、欧米では戦争孤児が大量に生まれて、キリスト教社会ではその子たちを養子として引き受けようとする宗教的な基礎がありました。社会的養護という考え方が根付いています。日本人も仏教の国として慈悲の心を大切にしますが、公の言語に結びついてないから、”もらいっこ”みたいな差別につながったりする。日本では「家」を存続させるため、跡取りを育てるための養子という感覚が強いですね。家制度は、夫婦別姓を認めないことや、天皇制の男系へのこだわりにもつながっている。
――同性婚を認めたがらないというのもそういうところに関係しているのでしょうね…。最後に、せっかく北丸さんにインタビューを差し上げているので、「PRIDEとは何か」についてお聞きしたいと思います。私は『LGBTヒストリーブック』のレビューで、「なんでパレードってやってるの? PRIDEってどういうことなの? LGBTはなぜ権利を主張するの? といった疑問をお持ちの方などにもぜひ、読んでいただきたいです」と書きました。たぶん当事者のなかにもアライの方のなかにも、PRIDEということが意外と根付いてないと思われるなかで、この本が最良のテキストになるだろうと思ったからです。北丸さんにぜひここで、「PRIDEとは何か」ということを教えていただきたいです。
LGBTQはずっと存在がないことにされていました。そこには空白があり、情報が欠落していた。存在する地平まで浮かび上がらなくてはならなかった。そのために、PRIDEを動力、浮力として使ったんですね。つまりはカムアウトするためのエネルギーに使ったんです。
なぜわざわざカミングアウトしたり声を上げたりしなくちゃいけないの?と言う人もいますが、もしストレートやシスジェンダーと同じように存在できていれば、そんなこと要らないんですよ。「同じように存在」するために必要なエネルギーなのです。
「ホモセクシュアル」はただの形容詞ですが、「ゲイ」や「レズビアン」はアイデンティティです。
例えばある事件や事故の「遺族である」というのはただの形容詞ですが、その事件事故の被害者の遺族として生き、声を上げていかなくてはいけないと思う人は、「遺族である」ということをアイデンティティとして引き受ける。そこには胸に秘めたPRIDE、矜持がないとなかなかできるものではない。
――差別や不平等がある限り、PRIDEをもってギャップを埋めていくための運動をしていこうということですね。そのためのアイデンティティがLGBTQという言葉に結晶していると。
最大の情報源は、LGBTQ+の存在そのものです。隣にいる、というだけで百の本を読むよりも大きな気づきになり得る。カムアウトとは、周りに「自分以外の人間が存在する」という想像力を起動させるための行為で、そういう「他者」への気づき、「自分以外の可能性」を共有することなのです。ハーヴィー・ミルクが言っていたのはそういうことです。その気づきはLGBTQ+問題に限りません。人種差別やジェンダー差別、すべての人々の人権への気づきにつながる。そこにしか寛容な社会は成立し得ない。
アメリカでは2013年の調査で初めて「身内や親しい人たちのなかに、LGBTQの人がいる」と回答した人が50%を超えました。現実の生身のLGBTQが生活していると知った人が国民の過半数に上ったのです。その2年後に、同性婚がアメリカ全土で実現しました。オバマ大統領はそのとき、こういうことを言っています。「実は、私の娘たちに尋ねられた。学校で、ゲイやレズビアンの両親に育てられた友だちがいる。どうしてその人たちは結婚できないの? と。私は答えることができなかった…」
――とても素敵なお話。ありがとうございます。最後に、このサイトを読んでくださっているアライの方に、何かひとこと、お願いします。
LGBTQ+の歴史には、紆余曲折もあるし、亀裂もあったりするものの、大きな流れで見ると、必ず前に進んでいっています。LGBTQ+の平等獲得とは、すべての人権問題とつながる民主社会の普遍的な目的の一つなのです。
職場の人や身の回りの人に、LGBTQ+について話したりすること、それは女性差別や外国人差別、職業差別や社会格差などの不平等にも気づくことでもあります。そういう小さな気づきの積み重ねが歴史を動かすことにつながります。さざ波がたくさん集まると、やがてそれは社会の因習を洗い清める大きなうねりになるはずです。
――今回の絵本の出版を実現させるためにクラウドファンディングにご協力いただくことも、そのような歴史を動かす力になりますね。ぜひご参加いただきたいと思います。
ニューヨークの地下鉄で自分の家族を見つけた ある赤ちゃんとゲイ·カップルの実話
『Our Subway Baby(ぼくらのサブウェイ・ベイビー)』を翻訳出版したい!
https://greenfunding.jp/thousandsofbooks/projects/5005
【追記】2021.9.29
皆様のご支援のおかげで、目標金額を無事に達成したそうです。よかったですね。
ご支援くださった皆様、ありがとうございます!
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