FEATURES

レポート:トランスジェンダー国会~GID特例法議論の現在~

3月31日のトランスジェンダー可視化の日、GID特例法の問題について議論する院内集会「トランスジェンダー国会」が参議院議員会館講堂で開催されました。当事者のリアリティに基づく、しかし決して一枚岩ではない多様な見方・考え方が提示され、シンポジウムのような趣の、実にハイレベルで深い議論がなされました

(会場でスピーチしたトランスジェンダーのよだかれん元新宿区議)

 

 「最高裁判所大法廷が2023年10月25日にGID特例法の4号要件(生殖能力喪失手術要件)を憲法13条に違反すると裁定して1年以上が経過しましたが、未だに法整備はなされていません。他方、米国でトランプ氏が大統領に就任した直後からトランスジェンダーの存在を消し去るような政治方針を矢継ぎ早に打ち出し、日本国内でも世界的にもトランスジェンダーの人々が混乱や困惑、さまざまな困難に直面しながら生きる日々が続いています。3月31日のトランスジェンダー可視化の日、TransgenderJapanは改めてトランスジェンダーが主体的に生きるために必要な法制度の整備を求め、その可視化のために「トランスジェンダー国会」を開催します」としてGID特例法の問題について議論する院内集会「トランスジェンダー国会」が3月31日(月)、参議院議員会館講堂で開催されました。YouTubeライブでも配信されました。その登壇者のお話を(マリフォー国会などと同様、国会議員の方たちのご挨拶もありましたが、そちらは割愛させていただき)ダイジェストでお伝えするようなかたちでレポートします。
 
 
 最初に弁護士の本多広高氏が最高裁大法廷判断の内容と意義を解説しました。
 最初に「性別とは何か」です。法的な性別について、戸籍の続柄欄で間接的に表示されてはいますが、何をもって性別とするか直接定める規定はありません。医師の判断を前提とすると見ることもできるが、割り当てられた性別との食い違いを感じる人もいるわけです。社会的には、生まれた時に定められた性別(戸籍の表示)と自認する性別が食い違いがあることもあります。内心で日々経験している性別が女性なのに法令上男性だと言われるのは誤った関係を強制すること、自認する性別で社会的承認を得ることは人格的に不可欠です。
 「GID特例法について」。建付けは法的な性別変更。条件は大まかに三つあります。・家裁への申立て。・二人以上の医師の診断。・そして五つの要件。このうち4号要件=生殖腺がないことについて最高裁で違憲とされたので、法文として書かれていないのと同じです。5号=外観要件、近似する外観かどうかというのは事実認定で、例えばホルモン治療で肥大・萎縮すれば近似する外観と見做されます。性同一性障害(GID)のDはdisorderで精神疾患ということ。現在は性別違和・性別不合と言います。
「性別の承認の三段階」:①医療 ②権利の問題として取り扱われる段階 ③病理的なアプローチが消滅し人権として語られる段階
「最高裁判断の内容について」。申立人は、戸籍で男性とされているが、女性への性別変更を望む人。性別適合手術は受けていません。憲法13条に違反するとの判断でした。2018年では合憲とされましたが、23年の最高裁大法廷では全員一致で違憲とされました。関連する事実が四点あります。心理的な性別は自己の意思では変えられないということ。また、性自認に沿った取扱いを受けられないことの不利益。特例法の背景として、制定時、ガイドラインに段階的治療のことが記されていました。特例法は、制定時にGIDが医学的疾患であるとの理解を前提に、不利益を解消していこうとつくられたもの。他方で、今後、状況に応じて検討・見直しをすることも附則において明記されています。ICD-11がGIDを廃止し、性別不合としたことにも触れています。医学的事情に変化について詳しく述べられていたことも注目すべきところです。自己の意思に反して身体の侵襲を受けない自由がある、手術が強制される場合には自由の重大な制約にあたるとされました。結論として、身体の侵襲を受けない自由の制約は必要かつ合理的ではないと言われています。
 この判決の評価ですが、性別の第二の段階(権利の問題として取り扱われる段階)に進んだと言えます。全員一致だったこと。立法裁量という言葉がないこと。13条の幸福追求権は性自認が尊重されるべきだと、重要な利益という表現で言われていました。 


 静岡大学の笹沼弘志教授が、憲法学の立場から、最高裁大法廷判断の評価とGID特例法改正案の姿をどう展望するかということをお話しました。
 24条は、家族関係における個人の尊厳と両性の平等。13条で保障された一般的な自由を、より実質的・現実的なものとして保障する趣旨。その点を、なかなか憲法学者は今まで理解していない。24条も自由権規定です。家父長制を法によって制限して、家族関係における男女平等や多様な性を保障しています。憲法は最初から性の多様性を保障しようとしていたのです。
「特例法について」です。実は、23年の最高裁大法廷判決の1週前に、浜松の俺裁判というのがあった。4号の生殖不能要件が違憲だとされて、手術を受けていないトランス男性の性別変更を決定しています。なので、最高裁は2番目なんですね。
 その「最高裁の決定の中身」について。まず、手術を強制することは身体への侵襲を受けない自由を制限するものだと言いました。また、性自認にしたがった法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を誰もが持っているということ。性別を自分の性自認にしたがって変更してくださいと言うと、身体に侵襲を受けるのはおかしい。法的利益の侵害か身体侵襲かどっちがいいか。つまり、ゲンコツで殴られるかパーで平手打ちされるかどっちがいいか。どっちも痛い。シスジェンダーは平気なのに、トランスジェンダーだけ許されず、差別されています。しかも国会が制定した法令で差別されています。もともと特例法は差別や不利益を是正するための法律であるはず。自由な幸福を侵害されるのを解消することが目的だったのに、要件を設けることで新たな障壁を作ってしまったのです。国会は、本来の目的を達成できずにいるわけです。そのための合理的な手段を使っていない、不合理な手段を使っちゃった。だからこれを変えようということです。
 法改正で問題になるのが、トランスジェンダーをあたかも根っからの性犯罪者であるかのように非難する人がいる。性的な快楽を得ようとしているなどと言って。これはいちばん最初、米国で70年代に言った人がいた。いまものすごくなっている。日本ではここ数年。トランスは人類の敵だと言う人さえいます。そういう人と仲良くして、彼らにも配慮して法改正しなければいけないという考えもあるとしたら、それは間違いです。(拍手)
 人は変わるんです。可塑性。いい人も悪いひともいるが、悪い人もいい人になれる。憲法はそのような法整備をしています。だからトランスが生来の性犯罪であるかのように言って法改正に反対する人は、ただの差別者。ヘイトスピーチです。個人の尊厳を傷つけ、安心して発言できないように、発言しても価値がないかのようにしています。表現の自由の侵害です。民主主義社会を掘り崩すものです。そのようなものは制限されなきゃいけないと、国会も認めています。
 トランスジェンダーは世間からも、法的にも、二重の差別を受けています。二つ目の社会的障壁である特例法をどう改正するか。野党が共同提案したLGBTQ差別解消法案の中で合理的配慮を定めています。合理的配慮とはreasonable accommodation。reasonableとはつまり理にかなったということ。どういうふうに理にかなった制度にしていくか議論していく際に、相手の存在を否定する発言は認められません。考え方は多様だから一致はしない、だから最後は多数決になります。そういう議論のための手続きの基本的なところを踏まえて今後、議論していくべきでしょう。


 弁護士の南和行氏(最高裁大法廷での違憲判決を勝ち取った方)は、GID特例法現行法の問題点と改正の方向性についてお話しました。
 最高裁で代理人をしていました。弁護士として、特例法の使い勝手について問題意識を持っていました。4号の手術要件は違憲とされましたが、案件としては高裁に差戻しとされています。最高裁は外観要件について判断しなかったんです。そして昨年7月10日に、高裁で外観要件の無効を認めるという決定になりました。近似する外観について裁判所はどう判断するでしょうか。外性器について、個別の事情を捉えて、形式的に手術しているしていないじゃなく、社会生活に支障が生じない人であれば、必ずしも外性器が近似していなくてもいいと広島高裁は言いました。このことは評価できます。もちろん人によっては、手術しろと言う人もいますが、現実問題として、法的性別変更は裁判所の審判手続きなわけで、お医者さんが用意した書類にハンコを押すだけじゃないのです。健康上の困りごとは医療支援ですが、その人にとってマイナンバーカードの性別欄が男がいいのか女がいいのかということは医者は判断できないです。裁判官が一件一件判断すべきです。今回の申立人については、日常生活支障がないから大丈夫と、裁判所としてしっかり判断した。これからも特例法が残るのであれば、運用を考えるうえで示唆に富む判断だったと思います。
 なぜ私がここで、直ちに5号要件(外観要件)を無効にしろと言わないのかというと、実際の問題として法律の要件をどう変えてクリアしたからよかったクリアしていないからダメよということで解決できないことを立法者に理解してほしい、この法律にしたから、あとはこのまま、10年20年みんなこの法律のレールに乗っといてくれたらあとは回っていきますわというふうなつもりで、パフォーマンスのように要件全部を廃止する法案を出すようなことはすべきではないと思うからです。
 私がやってる案件で、例えば、性分化疾患、生まれたときの体の状況で直ちに男/女と言えない、えいやーで出生届でどちらかに○をする、成人後に、自認する性別と違う、でもその方は特例法には当てはまらない、どうするかというと、戸籍の訂正の申立てをします。裁判所は、まさに個別の事情で判断します。この人にとっては、戸籍の性別はこうあるべきだと判断して戸籍の訂正を認めます。実際、やっていることは、審判による効果は、特例法の効果と同じです。そう考えると、社会的な問題である法律上の性別の取扱いは、裁判所が個別に判断する枠組みをしっかり意識すべきだと思います。 
 また、私が特例法で非常に大きな問題だと考えているのは、取消しの規定がないこと。変える大騒動したにもかかわらず、取消しとはなにかと思われるかもしれないけども、現実にはたくさんいる。10代の頃に、学校に行きにくく、抱えてる問題の根源はジェンダーだと思い、性同一性障害だと思い、20歳になったら手術を受けて裁判所に行って性別変更して、私は取消しの相談を受けてきて、なぜか女性から男性に変わった人がいいのですが、やっぱり違う、自分が生きる性別は女性だと気づいたときに取消しは、全くない。この審判はおかしいから、ガラッと変えてくださいと言うしかない。私が成功したのは1件だけです。そういったことも、裁判官は、お医者さんどう言ってますか、ということしか言ってない。
 裁判所が何を判断するのかということをしっかり考えて。国会で議論するにあたっては、いま溢れている、ひどいヘイトがあかんということ、それと特例法の問題をごっちゃにするなとちゃんと言ってほしいと思います。


 特例法の「非婚要件」が違憲無効であるとして、婚姻している状態での法令上の性別の取扱いの変更を求める審判(なんでうちらが離婚せなあかんの?裁判)を申し立てたみきさんが(顔出しはせずに)登壇し、お話しました。
 私は結婚をしています。生活実態や性自認は女性であるのに身分証では男性になっているため、生活に困難が生じている、特例法に基づいて性別変更したい、しかし、結婚しているがゆえに認められません。離婚してしまうと、相続など婚姻関係であることで保障されるさまざまな保護を失うという困難に直面する、つまり「婚姻の継続」と「性別の法的な扱い」を選べない、過酷な二者択一を迫られている現状です。そもそも「非婚要件」は同性婚を防ぐために設けられましたが、これだけ違憲判決が相次いでいるなか、この立法事実にはもはや正当性がありません。ですから、私はこの離婚の強制は違憲だと争っています。
 京都家裁は、性別取扱いの変更は重要な法的利益であり、婚姻関係の継続もまた重要な法的利益であるとし、両者が二者択一であることは権利の制限であると認めてくれました。万々歳じゃないですか。さらに、婚姻(継続)の事由は憲法13条および憲法24条1項で保障された人権または権利だと認める余地があると、そこまで言っていただいた。にもかかわらず、婚姻制度の具体的な内容は憲法24条2項で立法府に委任されているので、直ちに違憲とまでは言えないとした。立法裁量論(どんだけ人権が侵害されてても、立法がOKと言えばOKだという論理)。そんな無茶な話がありますか。裁量と言っても、憲法の13条や14条の要請を逸脱してはならないですよね? 判断から逃げないで、仕事してください!
 今日言いたかったことは、「今から」女にしてくれとは言っていないということです。いまみんなが女性と思ってくれている生活の実態に、書類を合わせてほしいと言っているんです。法律で性別を変えてくれと言ってるわけじゃない。例えば、住民票を出すと他人だと思われる。旦那さんのですよね?と言われる。本人確認が困難。説明しようとすると、望まないカミングアウトを迫られるし、相手は混乱するし、言った相手が理解のない人で、言いふらすかもしれないという危険もある。採用面接で戸籍の性別の話をすると、中断されたり。
 特例法の目的は、数年単位の社会との関係の再構築を順番にやっていくなかで、社会生活の実態に法令上の性別の取扱い「も」合わせること。望まないカミングアウトやアウティングを防ぎ、プライバシーを守る、社会生活を守り、命を守るための法律ではないでしょうか。
 結婚の成立と継続の実有は、自己決定権・幸福追求の権利。24条1項にもあるように、婚姻の維持は国の義務です。しかし、特例法は事実上離婚を要求しています。国は何を守りたいのか。円満な家庭関係を破壊してまで維持したいものとは何でしょうか。私たちを無視しないでください。だから裁判をやっています。
 特例法改正に関してです。性別移行の当事者を法的に支えるのが特例法ですが、性同一性障害が性別不合になって、医療モデルから社会モデルに変わったため、要件や特例法全体の建付けも変える必要があります。男女を法律が定義づけるという視点からの脱却が大事。国会議員とかも、こういうやつを男と認めてやろう女と認めてやろうという視点を感じます。そうは言っても、現実、合理的な調整も必要だとは思います。


 産婦人科医の藤田圭子さん(全国のプライドパレードにも精力的に参加されている方です)が、2024年8月に改訂された「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」に基づくジェンダー外来臨床から見えてきた課題と展望についてお話しました。
 相談の事例を紹介します。出生時女性とされた中2の生徒が、親に学ランを着たいと伝えました。その子の同じ学年に、学ランを着て男子として通っている子もいて、学校は認めていたんですね。でも、お母さんとかはOKだったのに、お父さんが「制服くらいちゃんと着ろ」「あそこの親は何やっとんねんと思われるやろ」と怒鳴った。こういうことすごく多いんです。私は、大きい声で怒鳴る人がいちばん困ってるんだと思い、お父さんの話をめっちゃよう聞きました。「お父さんなんでそんな怒ってんの?」って。で、お父さんは、言いたいこと言ったら、ガス抜けたみたいに静かになるんですね。だから、本人もご家族も1ミリも悪くないんです。病気でもないし、わがままでもない。先祖の霊が乗り移ってたりもしない。世界中に同じような人がいます。でも、日本では性的マイノリティの正しい知識が社会に伝えられていないと感じます。「ほんまに、お父さんごめんね」と言いました。
 親が性的マイノリティのことどんだけ知ってるか。私がPTAとか学校とか呼ばれてセミナーするときに、感想を書いてもらうんですが、その感想の紙をお見せします。無意識の差別的な考え方があったと気づいた、こういう話を初めて詳しく聞いた、自分にも固定観念があったと感じたという親御さん。1年前の神戸新聞の記事で小学生に多様性教育をしているという記事があって、もし子どもが当事者だった場合、「理解できる」が26.6%、「理解できるよう努める」が64.6%で合わせて91.2%の保護者が理解したいと考えていることがわかりました。
 今のままだったら社会に出たときに困り事てんこもりやねんで。
 出前授業後の中学生の感想を紹介します。どんどんいいこと書いてくれます。「私の家族はジェンダーがどうのこうの言うのを嫌っています。今回知ることができてよかったです。同性の恋人がいます。まだ同性婚は認められていませんが、その子のことが好きだという気持ちを大切に、生きやすい社会になればいいなと思いました」「多様性という言葉が話題になりましたが、理解できない、気持ち悪いと思う方もいます。私たちの社会は大人たちが作り、よりよく生きていけるように進められていることを心に刻み、のちの世代に自由を与えたいと思いました」「私は女か男かどちらがわからない人もいるというのがあってもいいと言ってくれて嬉しく感じました。私は同性とも付き合ったことがあるけども、2択しかないと思っていたけど間違いではないと思えました」。未来の有権者ですよ。これは保健室でパートナーと手をつないで来てくれて話した子ですが「自分たちのことを話す機会がなかったので、うれしかったです!」
「医療現場は困っている」という話です。私は産婦人科医として、不妊治療にも携わっていて。「先生、見て、男?女?」って聞かれるわけですね。そのときに妊婦さんに言ってるのは「その子が男だと思ってたけど女の子の好みだったりするかもしれんし、そのときはどんなん好きなん?って聞いてほしい。トランスやノンバイナリーかもしれない。どうかその子の自分が思ってる性別を尊重して育んであげてほしい」と言ってます。マジョリティは平気だけどマイノリティは困っている、ということが多々あります。いないものとして校則や制度があります。社会全体で、セクマイの知識を習得できるように。困ってる人の話を聞いて校則や制度を作ってほしいです。
 自動車を運転する前には、教習所に行き、事故を防ぐために、安全運転を学びます。人権に関わる人は、正しい知識を学んで、差別やヘイトを含めた人権侵害を行なわないように。差別禁止の法律を求めます。


 2016年に性別変更するために不妊手術を必須と定める法律の違憲性を問う裁判を起こしたレジェンドである臼井祟来人さんがオンラインで登壇し、手術を伴わない性別変更の司法判断を引き出した当事者の立場からGID特例法改正議論に求めることを語りました。
 離婚しないといけないみきさんに完全に同意です。特例法で性別が決まるわけじゃない。
 自分は裁判を通じて、こんな田舎でも、個人が訴えたら、司法に届くんだと感動しました。今まで特例法があって進んできたことにも感謝しています。制度は変わっていいと思います。ある人から「世間の目から隠れて生きてるから理解されないし、ましてや法律はできない」と言われたときに、「ああそうか、まだ自分もカミングアウトしてなかった」と思い、今から11年前にカミングアウトしました。存在してないと思われてるのは自分のせいでもある。声を上げていない。法律のせいで自分が不幸というのは違うと思いました。
 もう一つ。カミングアウトした後に、法律家の友達から言われたのは、「法律は最後に変わる。困ってる人が一定数いて、初めて社会で考えるようになる。そういう日は来るけど、何年後かわからない」と。どう生きたいかと言われて、法律があるなしに関わらず、自分が生きたいように生きる決意をしました。社会が変わったのを見ることができました。クリスチャンという信仰上の理由もあり、性別を変えることに関しては慎重でした。時間がかかりました。でも、パートナーとの結婚を考えた時に、アクションを起こそうと思い、岡山家裁に。そもそも当事者は、手術すれば性別変更できるし、「手術しない人は性同一性障害と言えるのか」という意見もありました。手術せずに性別変更を求める人はほとんどいない。自分はたぶん二人目で、誹謗中傷も受けました。結果、2019年に最高裁は合憲の判断をしました。でも、いつか時代が変わると思いました。海外ではもっと酷い判例もあって、自分はこんな素晴らしい判決が出てよかったと思っていました。
 いまは8年越しに婚姻が認められて。息子と養子縁組していて。人口の少ない村ですが、付き合い方が変わるわけじゃないし、「前と何も変わらないね」と息子に言われて、真実だなと思いました。
 もう一つ、身体的には女性であるというところで医療のサポートも必要です。性別変更したから女性の体でなくなるわけではありません。そこが上手に融合できたらいいと思います。法律を作るのは大変だと思いますが、ぜひ、早急に取り組んでいただきたいです。


 岡山大学大学院教授で日本GI学会理事長の中塚幹也氏もオンラインで登壇し、日本GI学会におけるGID特例法改正議論の現在地についてお話しました。
 性同一性障害の概念が廃止されて性別不合となり、GID学会も改名した、法律の名前も変わると思う。精神科医の役割が問われます。定義も変わって「実感する性別(Experienced Gender)」に。医療モデルから、生活モデル、社会モデル、人権モデルへと変わっていきます。日本人の意識を変えていくことも大事です。
 特例法については学会で提言を出しています。子なし要件についても指摘しているし、撤廃を求めています。手術要件については4号5号分けずに提言出しています。WHOも外すべきだと言っています。臼井さんのような方もいるし、病気で手術できない方や、お金の面で難しい方もいるわけで、手術なしでも認めるべきだと提言しています。
 判例でトランス男性については手術が必須ではなくなり、ホルモン療法に変わりました。24年8月に「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」の改定版を出しています。精神科医療の関わりは大事。やはり話が聞ける人は精神科医です。診断書は誰が書くかというと、学会の認定医またはそれに準じた診断を的確に行なうための知識や経験を有した精神科医です。認定の役割が重要になってきています。保険適用に向けても活動しています。トランスジェンダーの家族形成。異性愛じゃない方もいます。それから特定生殖補助医療法案。LGBTQに関わってくるので、よく見ていかないといけないと思います。


 仲岡しゅん弁護士が登壇し、「GID特例法改正「手術要件」廃止後の社会に向けて――刑事施設の問題を中心に――」と題してお話しました。
 手術要件廃止後の社会に向けての諸問題について、怒りと憤りを持っています。野党の皆さん、外観要件外した後のことを全く考えてない。ヘイトが当事者が矢面に立っている。最高裁の時に、ヘイトが活発化するんじゃないかという不安がたくさん寄せられた。そのことについて、与党も野党も自分事として考えてますか。
 ここからは、実務的な面白くない話です。
 法令上の性別とは何でしょうか。特例法は、性別を変える法律ではありません。法令上の性別の取扱いについてです。
 そもそも法令上の性別の取扱いとは?
まず性別変更の効果は、
・婚姻ができる 
・戸籍の続柄をはじめ公的書類の性別表記の変更ができる 
それ以外の法令上の効果は、
・生殖能力の差異に由来するもの:生理休暇や労働基準法、親子関係の諸規定など
・身体的外観の差異に由来するもの:施設の設置、刑務所、入管など
従前の性別の通りに適用せざるをえない場合もあります。手術要件がなくなった場合、戸籍と身体の状態が乖離する可能性があります。
「性別変更後の親子関係」についての事例です。親の法的性別に関わらず、血縁上の「父」に対して認知を求めることができるという最高裁判決。これとパラレルに考えるならば、性別変更済みのトランス男性の出産がありえます。
「男女分けされた場の施設管理」について。トイレ、公衆浴場、職場の更衣室・寄宿舎などが最もコンフリクトが生じやすい分野です。事業者としては公的書類から手術の有無を判断できません。調整が必要、ガイドライン等が必要ではないでしょうか。
「刑事収容施設と性別」について。戸籍の性別で分けられると、生殖能力を持つトランス男性が男性刑務所に。戸籍性と身体的特徴の乖離。集団処遇から個別処遇への転換が必要じゃないでしょうか。
 最後に一言言わせてください。いま現在の刑務所では、トランスの人権守られてません。坊主頭にされる、ホルモン投与も施設によっては認められていません。弁護士会で申立てなどしていますが、なかなか実情は変わりません。 


 このように、特例法は性別変更のための法律ではないとか、目から鱗的な、学びの深い言葉もたくさん聞けましたし、当事者だからこそのリアリティや、実際の経験に基づいた貴重なお話もたくさん聞けましたし、一方で、決して一枚岩ではない多様な見方・考え方が提示され、シンポジウムのような趣の、実にハイレベルで深い議論になっていたと感じ、感銘を受けました。


 以下はYouTubeライブで配信されたトランスジェンダー国会の模様(アーカイブ)です。  


※なお、当日、会場に来られなかった方から動画でメッセージが届き、TGJPのチャンネルで公開されています。

 HumanRightsWatch日本の土井香苗代表は、「HRWが描く性別変更制度のあるべき姿とGID特例法改正議論に求めること」と題してお話しています。
 まずは迅速な法改正を。議論の中で、長期の待機時間を設けることやホルモン療法を要件化することなどに懸念があります。WPATH(世界トランスジェンダー学会)は昨年、法的性別変更にあたって医学的な要件を入れてはならないと要請しています。ホルモン療法の強制は手術の強制と同様だとしています。要件全てを撤廃すべきです。重大かつ屈辱的です。日本政府が発した人権コミットメントに反しています。人権尊重の法を。医療と法的プロセスは分離すべきです。

ジョブレインボー
レインボーグッズ