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LGBTQの海外安全情報(渡航情報)
LGBTQにとって諸外国がどの程度安全かということを一覧にしてお伝えします
世界には同性婚を認めている国もあれば、法律で同性愛を禁じている(なかには逮捕・投獄されたり、極刑を課される可能性がある)国もあります。トランスジェンダーに関しても同様で、とても寛容な国もあれば、異性装者が逮捕されたり殺されたりする国もあります。
日本にいるとあまりピンとこない方がほとんどだと思いますが、ドバイ(UAE)で男性が女性の装いをしたり、エジプトでレインボーフラッグを掲げると、逮捕されるおそれがあります。そういう国や地域があるということをご承知ください。
ここでは、LGBTにとって諸外国がどの程度安全かということを一覧にしてお伝えします。
このような情報は、旅行者だけでなく、日本の企業が海外の支店や出張所などに(もしかしたらLGBTかもしれない)社員を派遣する場合などにおいても、非常に重要です。
もし海外出張の予定がある場合、以下の一覧をご確認のうえ、十分ご注意ください。
※判断が難しいのは、実は、ここに挙げた地図に載っていない(データがない)ケースもあり、その中に非常に危険な国も含まれている場合があるということです。例えば、性的指向の地図について言うと、北朝鮮では女性同性愛者(しかも在日の方)が死刑にされたというニュースが伝わってきていますが、データなしの扱いになっています。トランスジェンダー殺害の地図では、イランや、サウジアラビアなどの湾岸諸国についてデータなしになっていますが、異性装者が逮捕されたというニュースがたくさんあります。わかる範囲で、注釈を付けていますので、お読みくださるよう、お願いいたします。
同性間の性的行為に関する海外安全情報(渡航情報)
ILGAが作成している性的指向に関する世界地図(2019年版)に基づき、成人間の合意に基づく同性の性的行為※を犯罪と見なしている国の一覧を示します。
※性的行為とは、セックスだけでなく、公共の場でイチャイチャすることなど、一見して同性愛者であるとわかるような行動も含まれる可能性があります(異性装者も同性愛者であると見なされるかもしれません)。国によっては、ゲイのパーティに参加したり、レインボーフラッグを掲げたりしても逮捕されるケースもあります。
極刑を科す法律がある国
非常に危険(法が有効)
- イラン
- サウジアラビア
- イエメン
- スーダン
- ソマリア
- ナイジェリア(北部)
可能性がある(法が適用されていない)
- パキスタン
- アフガニスタン
- カタール
- アラブ首長国連邦
- モーリタニア
禁固10年以上~終身刑を科す法律がある国
- ブルネイ(死刑にする法律の導入が検討されていましたが、国際社会の非難を浴び、現在保留中)
- マレーシア
- ミャンマー
- バングラデシュ
- スリランカ
- ガンビア
- シエラレオネ
- ナイジェリア(南部)
- 南スーダン
- ウガンダ
- ケニア
- タンザニア
- マラウィ
- ザンビア
- ソロモン諸島
- キリバス
- ツバル
- トンガ
- ジャマイカ
- アンチグア=バーブーダ
- セントクリストファー・ネーヴィス
- ドミニカ
- セントヴィンセントおよびグレナディン諸島
- セントルシア
- バルバドス
8年以内の禁固刑を科す法律がある国
- モルジブ
- ウズベキスタン
- トルクメニスタン
- クウェート
- シリア
- レバノン
- パレスチナ自治区
- オマーン
- リビア
- チュニジア
- アルジェリア
- モロッコ
- エリトリア
- エチオピア
- ソマリア
- チャド
- カメルーン
- トーゴ
- ガーナ
- リベリア
- ギニア
- セネガル
- ブルンジ
- コモロ諸島
- モーリシャス
- ジンバブエ
- ボツワナ
- ナミビア
- エスワティニ
- パプアニューギニア
- サモア
- クック諸島
事実上犯罪と見なされる国(逮捕される可能性がある)
- イラク
- エジプト
同性愛自体は合法であるものの、同性愛を公に表現することを罰する法律がある国
- 中国
- インドネシア
- カザフスタン
- キルギスタン
- ロシア
- ベラルーシ
- リトアニア
- パラグアイ
※国連で承認された国家ではありませんし、そもそもが危険なのですが、ISIS(イスラム国)が、同性愛者とみなした男性を塔から突き落として処刑したという報道がありました。
※北朝鮮でも同性愛者(しかも在日の方)が死刑にされたという報道があります(こちらやこちらを参照)
※同性愛を違法とはしていないエジプトで2014年、同性結婚式に参加した人たちが逮捕されたほか、2017年にはコンサートでレインボーフラッグが掲げられたことから大勢が逮捕されています。2016年にはゲイアプリを使って警察が囮捜査を行なっているとの報道もありました。十分、注意が必要です。
※同様に同性愛を違法とはしていないイラクで、2017年の1年間だけで少なくとも220人もの人が性指向や性自認を理由に殺害されています(こちらを参照)
※インドネシアのジャカルタでは2017年、(同性愛行為そのものは合法であるはずなのに)ゲイサウナにいた58名が逮捕されています(外国人も含まれます)。インドネシアでは近年、LGBTへの抑圧が強くなっています。→2022年末、インドネシアで婚外の性交渉が犯罪化され、同性間性交渉も禁止となりました。2025年から施行される予定で、最長で1年の禁錮刑となります。
※ロシアでは2013年の同性愛プロパガンダ禁止法成立以来、同性愛者へのヘイトクライムが増加しています。2019年8月にはLGBT人権活動家が殺害されました。人目につくところで同性愛者だとわかる行動をとると、危険な目に遭う可能性がありますので、ご注意ください。特に、ロシアのチェチェン共和国ではゲイが強制収容所に入れられ、拷問に遭ったり、命を落とすという事例が多数報告されています。
※同性婚が認められている英国でも、2019年6月にレズビアンカップルが暴行を受ける事件がありました。(それ以外にも、欧米の先進国であっても、同性愛者への暴力事件は起きています)
トランスジェンダーの海外安全情報(渡航情報)
ILGAは、性的指向に関する世界地図は作成しているのですが、トランスジェンダーの権利状況については、詳細なレポート(PDF)を作成しているものの、世界地図にはなっていません…。世界200ヵ国についての詳細な情報をここで全て翻訳して列挙したとしても、どの国がトランスジェンダーにとって危険なのかが一目でわかるような情報にはなりえないため、何かほかにトランスジェンダーの海外安全情報に関して参考になる地図はないものか…と探したところ、Transgender Europe (TGEU) と学術系オンラインマガジン「Liminalis – A Journal for Sex/Gender Emancipation and Resistance」とが協働して2009年から行なっている「The Trans Murder Monitoring (TMM) 」というプロジェクトによるトランスジェンダー殺害件数に関する世界地図がありましたので、そちらをご紹介したいと思います。
<注釈>
- このデータは、報告数に基づいています。そもそも報告が上がっていない国や地域のデータは反映されていません。
- このデータが世界で起こっているトランス殺人のすべてではありません。協力してくれる組織や地域の活動家の報告によって作成したデータです。
- インターネット上にはたくさんの言語が使われており、トランスジェンダーや多様なジェンダーの人々のことを指す言葉も多岐に渡っているため、すべてのケースを網羅できていない部分もあります。
- トランスや多様なジェンダーの殺人のレポートを探すことは、とりわけ困難な作業で、殺された人が本当にトランスジェンダーなのかどうか、定かでないこともあります。
トランスジェンダーの方(特にトランス女性の方)がブラジル、メキシコ、アメリカ、コロンビア、ベネズエラに渡航する際は、注意が必要だと言えそうです。また、地図には表れていませんが、サウジアラビアやUAEなどの湾岸諸国も注意が必要です(下部に詳述しています)
トランスジェンダーの殺害報告件数(2008年から2020年9月までの累計)
1000件超
- ブラジル
501〜1000件
- メキシコ
251〜500件
- アメリカ合衆国※2
101〜250件
- コロンビア
- ベネズエラ
- ホンジュラス
51〜100件
- インド
- フィリピン
- パキスタン
- トルコ
- イタリア
- グアテマラ
- アルゼンチン
※ 地図上では「報告なし」になっていますが、サウジアラビアでは2009年に67人の異性装者が逮捕される事件があり、アラブ首長国連邦(UAE)でも2008年に異性装をした男女が逮捕されるという厳しい現実があり…おそらく殺人事件もゼロではないだろうと考えられます(少なくとも逮捕される危険があるということです)。クウェート、バーレーン、オマーン、カタールといった湾岸協力会議加盟国はいずれも異性装を法律で禁じているとこちらの記事では伝えられています。ドバイに行かれる方などは十分注意してください。
※2 海外に出張したり長期滞在する際の行き先として、アメリカはかなり確率が高いと思います。アメリカ…とても広いですよね。地域によっては、LGBTQの権利擁護が進んでいるところもあれば、かなり風当たりが強いところもあります。2020年のトランスジェンダー殺害についてのリストを見ると、事件が起こった地域はこのようになっています。
→オクラホマ州、プエルトリコ(5)、ノースカロライナ州シャーロット、ニューヨーク、メリーランド州ボルチモア、ミズーリ州サイクストン、テキサス州サンアントニオ、フロリダ州タラハッシー、ペンシルベニア州フィラデルフィア(2)、オハイオ州リバティタウンシップ、コロラド州メサ郡、イリノイ州シカゴ、アリゾナ州シャーウッド、テキサス州ダラス、ルイジアナ州アマイトシティ、フロリダ州ポンパノビーチ、ワシントン州シアトル、ルイジアナ州バトンルージュ(2)、カリフォルニア州ブロウリー、ニューヨーク州ブロンクス、オハイオ州アクロン、オレゴン州ポートランド
ニューヨークなど、比較的安全だと思われる地域でもヘイトクライムが起こっていますが、それは、南部や中西部からこうした地域に出てくる方が多い(トランスジェンダー人口が集中している)ためだと推測されます。傾向としては、やはり青い州はLGBTQに対して支援的で、比較的安全であると言えそうです。
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