事例紹介
vol.10 アンカレッジ
記事日付:2018/11/19
お寺のコンサルティングを行う株式会社アンカレッジさんは、LGBTフレンドリーな樹木葬などのサービスを行われています。インタビューでは代表取締役の伊藤照男さんに、LGBTフレンドリーになろうと考えたきっかけ、現在の取り組みについてお話を伺いました。
『死に方がわからない』『パートナーと同じお墓に入れない』終末期に不安を抱えるLGBT当事者に寄り添う樹木葬
-御社ではLGBTフレンドリー樹木葬をされていますが、きっかけは何だったのでしょうか?
2017年8月にエンディング産業展(葬儀・埋葬・仏壇・供養など終末関連のサービスが集まる展示会)に参加した際に、海洋散骨を行う企業からLGBTに関する説明を聞いたことがきっかけです。それまでLGBTについて言葉は知っていましたが、詳しくは知らないことも多くとても勉強になりました。
印象深かったのは、シニアのLGBTの方の中には「死に方がわからない」「パートナーと最後まで添い遂げられない」「同じお墓には入れない」といった悩みや不安を抱えている方が少なくないということでした。
確かにお寺のお墓には、法律上は家族ではないカップルが一緒に入ることがこれまで許容されてきませんでした。お墓の権利の問題もありますし、なかなか対応が難しいのが現状です。そんな中で海洋散骨であれば合法的にどなたでも受け入れることが可能ということから、海洋散骨を行う企業の中でLGBTの理解が進んできているそうです。
お話を聞いたときに、中には海洋散骨に抵抗はあるけれど、それ以外に選択肢がなく選んでいるという方もいらっしゃるのではないかと思いました。海洋散骨以外の選択肢も選べるように、弊社として何かできないか、と考えるようになりました。
-海洋散骨以外の選択肢として、御社でできることとしたらどのようなことがあると考えられましたか?
ひとつは弊社で行っている樹木葬をLGBT当事者の方もご利用頂けるようにするということです。私たちの提案する樹木葬は、どなたでもご利用頂けるものです。お一人でも、カップルごとでも、ご家族ごとでも個別の墓標の下でお眠りいただけます。お寺の檀家さんになる必要がないので宗教・宗派も不問です。一定の年数が経つとお寺の境内で合祀させて頂くので、将来的に墓じまいの必要がなく、お墓の承継者に悩むこともありません。ご自身が亡くなった後にご家族に負担をかけたくないという方や、内縁関係の方で一緒のお墓に入りたいから、といった理由で樹木葬を選ばれる方も多いです。
また、弊社の樹木葬は女性目線を意識した、花や緑に囲まれた明るく優しい墓地です。実はこれは社会的に弱い立場の方、つまりマイノリティの目線に立った方が、より多くの方にご満足のいくサービスがご提供できるのでは、との考えからです。
このようにもともと、どなたでもご利用頂けるものですので、社内でLGBTの話をしたときもみんな賛同してくれました。
また、弊社は道往寺というお寺が、お寺の経営コンサルティングを行う企業として立ち上げた会社なのですが、道往寺の住職も、アメリカで暮らした経験もあったことから、LGBTへの理解度も高く、賛同してくださいました。
もうひとつは、法律上の家族でなくても一緒にお墓に入れるルール作りと、それをひな型にしてお寺に提供することです。現在弁護士や行政書士の方と検討を進めていて、年明けにはリリースできるようにしたいと考えています。
最初に少しお話しましたが、法律上の家族ではないと同じお墓に入るのは難しいのが現状です。民法上は本人の意思を尊重するようになってはいますが、前例がないためこうすれば正解というのがありません。血縁者から異議申し立てをされたときに、お寺はどちらの意思を尊重すべきか判断が難しいです。
そこで、証明書類としてどういったものがあれば、本人の意思を尊重して同じお墓に入れるかについて検討しています。
実はこれまでLGBT当事者の方から相談を受けたことはないのですが、内縁関係の方から相談を受けるケースは多いんです。シニアの方でお子さんもいらっしゃるので相続上の問題があって再婚はできず事実婚状態の方、借金を理由に形式上離婚した方など、様々な事情の方がいらっしゃいます。LGBT当事者の方と事情は違えど、婚姻ができずお墓について悩まれています。
ですので、法律上家族ではない方が同じお墓に入るためのひな型というのは、LGBT当事者の方だけでなく、多くの方にとって必要とされているのではと思います。
エレベーターが世に普及を始めた頃の当初の目的は、車イスの方を助けるためだったそうです。実際には車イスの方だけでなく、高齢者、障がい者、妊娠中の方、ベビーカーを押している方など、様々な方にとって便利なものになっています。弊社のサービスも、結果的に、LGBT当事者以外の方にも優しい取り組みになれば、と考えています。
LGBTフレンドリーなサービスを提供するためにアンカレッジが行っていること
-LGBTフレンドリーなサービスを提供するために、御社ではどのような取り組みを行われていますか?
まずは我々がLGBTを理解する必要があると考え、半年前から月に1度の全社会議などで勉強会を行っています。先日は「カランコエの花」(とある高校である日唐突に『LGBTについて』の授業が行われたことをきっかけに起こる生徒たちの心の葛藤をえがいた映画。https://kalanchoe-no-hana.com/)を鑑賞しました。今後はLGBT当事者の方に来て頂いて、お話を聞くという機会も設けたいと思っています。私自身外部のセミナーでお話を聞く機会があったのですが、想像以上に胸に響くものがあり、心が動かされました。
社外向けとしては、お寺の方に対してLGBTの理解促進を行っています。直接お話することもありますし、お寺向けに行っているセミナーでLGBTについてお話することもあります。
-では最後に、今後についてお伺いできますか?
現在は樹木葬のチラシにレインボーを小さく入れて、分かる方にだけ分かるようにしているのですが、やはり知ってもらわなければご利用いただけないので、例えばTOKYO RAINBOW PRIDEなどのイベントでプロモーションするなども考えていきたいと思っています。
▼樹木葬のチラシにさりげなくレインボーを入れている。
また、お寺をLGBTについて勉強する場、相談できるプラットフォームな場にしたいと思っています。まずは私たちがよりLGBTについて理解することからですが、お寺の方々にもLGBTの正しい知識を持ってもらえる機会を今後も提供していきたいと考えています。
-ありがとうございました!
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