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職場での暴力・ハラスメントの根絶を目指す条約の制定について、ILO総会で議論が行われています
国際労働機関(ILO)の年次総会が6月10日、スイスのジュネーブの国連欧州本部で始まりました。今年は職場でのセクハラや暴力を禁止する初めての国際条約についての討議が行われ、21日までの会期中に採択される見通しです。特にLGBTが職場でハラスメントを受けやすいとの指摘がなされており、雇用者が責任を負う範囲を定め、各国で暴力やハラスメントを法律で禁じ、被害者保護や補償などの対策を取ることを義務づける条約が採択されれば、条約批准国は国内法の整備が必要となるため、職場でのSOGIハラ防止という点で画期的な、大きな一歩を踏み出すことになります。
ILOは労働の国際基準を定める機関で、187ヵ国の政府や労働者・雇用者の代表が参加しています。
新しい条約は、職場のあらゆる暴力やハラスメントの防止を目指すものです。条約案では「精神的、性的、経済的危害を引き起こす許容しがたい行為」などと定義されています。加害者や被害者には、取引先などの第三者も含まれます。条約の採択には3分の2の賛成が必要となります。条約は法的拘束力を持ち、採択された場合、加盟国は1年以内に議会などの批准機関に承認を求める義務があります。もし批准すれば、条約に沿った国内法の整備が必要となります(批准するかどうかは各国の判断に任されています)
ILOのガイ・ライダー事務局長は、総会の冒頭演説で「暴力やハラスメントをなくすための新たな国際基準を導入することで、この総会が悪習に打撃を与える歴史的な一歩となる」と述べ、採択の必要性を強調しました。
11日にはドイツのメルケル首相も登壇し、「適切な労働環境にない人々がいまだ多くいる。政府が労使と議論できるILOでの結束が求められている」と述べたほか、フランスのマクロン大統領も「働く人を守るため、共通した法整備が必要だ」と演説しました。
条約化の背景には、世界各地でセクハラを告発した「#MeToo(私も)」運動など、問題意識の国際的な高まりがあります。
そして、職場のなかでも特に、LGBT(性的マイノリティ)の人々がハラスメントを受けやすい立場にあるということが、総会において指摘されました。雇用者側が責任を負う範囲を広く認め、各国で暴力やハラスメントを法律で禁じ、被害者保護や補償などの対策を取ることを義務づけようとする議論です。休憩や通勤中も対象になるそうです。
しかし、今回の会議では、条約の具体的な内容、例えば雇用者が負う責任の範囲や、LGBTを擁護するかどうかといった点をめぐって、各国の社会規範の違いなどから意見が分かれています(昨年の総会でも、条約を制定すべきだとする委員会報告を採択する際、守られるべき労働者のリストにLGBTを含めることに対して、アフリカ諸国が強く反対し、一時、会場から退出するなど議論が紛糾する場面があったそうです)
条約を制定すること自体には賛成が多く、今回の総会ではどこまで条約の内容を詰められるかが焦点になりそうです。
今回の条約について、日本が賛成するかどうかはまだ決定していないそうです。日経新聞の記事によると「日本のハラスメントの規制は、世界各国に比べてなお遅れているとの声は多い」そうです。ちなみにEUではすでに2000年に、雇用と職場における性的指向による差別を禁止することを加盟国に課しています(詳しくはこちら)
一方、日本でも、5月下旬にパワハラ防止を義務づける関連法が可決・成立しました。そして、この中にSOGIハラやアウティングの防止も盛り込まれる見通しとなりました。なお、これを受けて「なくそう!SOGIハラ」実行委員会が6月20日、「SOGIハラ対策制定に向けて「ありがとう」を —そして「SOGI」「LGBT」法整備は次のステップへ−」というレインボー国会(院内集会)を開催するそうです。興味のある方はぜひ、ご参加ください。
参考記事:
職場でのハラスメント禁止の条約制定へ、ILO総会開幕(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45930350R10C19A6000000/
職場の暴力・ハラスメント根絶へ ILO総会で議論開始(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASM6B2SL8M6BUHBI013.html