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トランス女性に対するトイレ利用制限措置は違法であるとの初の司法判断が下されました
MtFトランスジェンダーで、戸籍上の性別は変更できないものの、女性として生活している経済産業省の職員が、東京・霞が関の勤務先庁舎で女性用トイレを利用することを制限されたり、上司から「もう男に戻ってはどうか」などと言われるなどして、精神的苦痛から病気休職を余儀なくされたことに対し、処遇改善と損害賠償を国に求めた訴訟で、東京地裁は12月12日、原告の訴えを認め、132万円の支払いを命じました。
原告側弁護団の山下敏雅弁護士によると、性的マイノリティの職場環境改善をめぐって下された初の司法判断だそうです。
原告のトランス女性は、幼い頃から性別違和を抱えており、男性として入省したものの、1998年頃から女性ホルモンの投与を始め、性同一性障害との診断を受けました。健康上の理由から性別適合手術を受けられず、戸籍の性別は変更できないままですが、女性への「社会的性別移行」ができたと感じられた2010年に「女性として勤務したい」と申し出て、女性の服装での勤務や女性用トイレの使用を認められました。翌年には戸籍の名前も女性名に変更しています。しかし、トイレについては、彼女が勤務しているフロアと上下1階ずつの女性用トイレの使用が認められず、職場から離れたフロアのトイレを使うことを命じられました。彼女はトイレの使用制限などをなくすよう人事院に求めましたが、認められませんでした。経産省は、原告が手術を受けず戸籍上の性別を変更していないことを理由に、硬直的な対応に終始していたそうで、異動したら同僚の女性職員に性同一性障害だと説明して理解を得るよう求めたり(カミングアウトを強制)、上司から「もう男に戻ってはどうか」などと言われたことも…。このようなSOGIハラに遭い、精神的に追い詰められて抑うつ状態となり、約1年半の病気休職を余儀なくされたそうです。
彼女は、「裁判を通じて平等な社会になってほしい」との願いを込め、2015年に裁判を起こし、「すでに女性として職場になじんでおり、トイレの使用制限の必要性はない」と訴えました。要求を認めない人事院の判定は違法であるとして、判定の取消しと精神的苦痛に対する約1650万円の損害賠償を求めました。
東京地裁の江原裁判長は、判決理由として、性別は「個人の人格的な生存と密接かつ不可分のもの」であるとし、「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることは、重要な法的利益であり、国家賠償法上も保護される」と指摘。トイレは日常的に必ず使用しなければいけない施設であり、経産省の原告女性への対応は「重要な法的利益を制約する」ものだと判断し、「他の女性職員とのトラブルを避けるため」とする国の主張を退け、「直ちにトイレの使用制限が許容されるものではなく、具体的な事情や社会的状況の変化を踏まえて判断すべきだ」としました。そのうえで、「日本でも、トランスジェンダーがトイレ利用で大きな困難を抱えており、働きやすい職場環境を整えることの重要性が強く意識されている」と、社会一般の問題意識の高まりにも触れながら。原告のトランス女性が他の職員とトラブルになる可能性は「せいぜい抽象的なものに止まっていて、経産省もそれを認識することができた」と指摘し、使用制限は正当化できず、経産省の対応は違法であると判断しました。
また、経産省側が、トイレを自由に使うためには性同一性障害であると女性職員に説明することが条件だとした(カミングアウトを強制した)ことは、「裁量権の濫用であり、違法」との判断を示しました。原告の方が上司から「もう男に戻ってはどうか」などと言われたことについても「性自認を正面から否定するもので、法的に許される限度を超えている」として違法だとの判決を下し、慰謝料などの支払いを命じました。
原告の方は判決後に記者会見を開き、「個人に応じた柔軟な対応が必要だと認めた判決で、非常にいい判断。安堵しています」「同じ当事者を勇気づける司法判断だったと思います」と喜びました。
「何かアクションを起こさないと、何も変わってくれないというのが、現実の世の中ではないか。すぐには変えられないかもしれないけれど、変えるために何かアクションを起こす。その第一歩を踏んでほしい」
「トランスジェンダーにもさまざまな人がいる。大切なのは人権を重視した対応。他の女性と同じように扱ってほしい」「多くの職場で(改善に向け)前向きに取り組んでほしいです」
弁護団の立石結夏弁護士は、「民間、自治体、すべてに対し、職場におけるLGBT施策は先進的な取組みではなく、使用者が当然行うべき環境配慮だという強いメッセージ発した判決だ」と評価しました。
山下弁護士は、「原告本人だけでなく、日本国内で苦しんでいる当事者を勇気づける判決。一人一人の多様性を尊重している」「法律上の性別にこだわって画一的な判断をするのではなくて、当事者の状況に応じた、柔軟な対応をしていくことが必要。裁判所もそう判断したということは、非常に意義のあることだと思う」と高く評価しました。そのうえで、「国には強く猛省を促したい」と語りました。
判決に対し、経産省は、「一審で国の主張が認められなかったと承知しています。控訴するかどうかは判決を精査した上で関係省庁とも相談の上、対応することとしたい」とのコメントを発表しました。
LGBT支援のNPO法人グッド・エイジング・エールズの松中権代表は、判決について「大きな一歩。判決は、性的マイノリティの職場環境を整えるために何をすべきか考える指針になる。性的マイノリティは認知度こそ高まっているが、理解が進んでいるとは言いがたい。性的マイノリティの人権が守られ、自分らしく働ける社会の実現につなげたい」と語りました。
また、LGBT法連合会も、今回の判決を高く評価する声明を発表しました。
「今回の判決は、性自認に関する差別や偏見を受ける多くの当事者を勇気づけるものであり、判示された内容は、社会全体で受け止めるべきものである。トイレ以外の男女別取り扱いも併せ、社会全体で見直しや改善に向けた取り組みが必要である。また当会は、今回の人権侵害の懸念が極めて強い特例法の手術要件につながる判示を重く受け止め、立法府に対応を求めていきたい」
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参考記事:
利用トイレ制限は違法、東京地裁(共同通信)
https://this.kiji.is/577767765048624225
性同一性障害職員、利用トイレ制限は違法 東京地裁(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53272270S9A211C1CC1000/
4年の闘い、改善せぬ職場…「勇気づける判断」原告ようやく笑顔 性同一性障害訴訟(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20191212/k00/00m/040/249000c
「自認する性別で生活、重要」社会の柔軟さ求めた判決(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASMDD5QG8MDDUTIL02S.html
「LGBT配慮はもはや先進的ではない」。経産省のトイレ使用制限、性同一性障害の女性職員が国に勝訴(HUFFPOST JAPAN)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5df1fd73e4b01e0f295a4b15
「女子トイレ制限」は違法、勝訴した性同一性障害の職員「アクション起こさないと変わらない」(弁護士ドットコム)
https://www.bengo4.com/c_5/n_10521/