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米最高裁が同性婚を祝うウェディングケーキの制作を拒んだ事例を差別だと見なす高裁判決を破棄、「信条の自由vs同性愛者の権利」については判断を先送りに
6月4日、宗教的信条から同性婚を祝うウェディングケーキの制作を拒んだコロラド州のケーキ店を「差別であり認められない」と訴えた裁判について、連邦最高裁の判決が下りました。判決は、手続きに問題があった(コロラド州人権委員会が店主の宗教的信条への敬意を欠いていた)として、拒否を「差別」とした州控訴審判決を破棄する(下級審に差し戻す)ものでした。判決は、信条の自由が同性愛者の権利擁護に優るかどうかといった点には踏み込まず、「今後の審理に委ねる」と判断を先送りにしました。
問題となっていたのはコロラド州のケーキ店「マスターピース・ケーキショップ」で、2012年7月に結婚を予定していたゲイカップルがウェディングケーキの制作を相談したところ、店主のフィリップ氏はキリスト教への信仰を理由にこれをデザインすることを断りました。カップル側は州公民権委員会に性的指向などへの差別を禁じる州法に違反すると申し立て、州行政裁判所が差別だとの判決を下し、控訴審でもこの判決が維持されました。
アメリカでは2015年に結婚の平等(同性婚)が達成されて以降、いくつもの州で公然と同性愛者を差別することが可能になる「宗教自由法」が議会を通過するなど、反動的な動きが起こっていました。そうした流れもあり、今回の裁判で、最高裁が同性愛者の権利擁護と表現や信教の自由、どちらが優先されるべきと判断されるか、注目を集めていました。
判決の主流意見を書いたケネディ判事(同性婚がアメリカ全土で実現することになった2015年の歴史的判決について決定的な判断を下した人でもあります)は今回、誤解されやすいところですが、信教の自由や表現の自由が同性愛者の権利に優り、サービス提供拒否の理由として正当化されるということを言っているわけでは全くなく、あくまでも、コロラド州人権委員会が件のケーキ店のフィリップ氏の対応を差別だと断じていることに対して、「委員会には敵意があり、宗教的に中立な立場で法律を適用すべきとする修正第1条の規定に反する」と述べて、原判決を破棄しているのです。
判決のポイントとなる一文はこのようなものです。
「他の状況下におけるこの種の裁判についての判決は、法廷でのさらなる綿密な吟味を待たなければならない。これらの争いはすべて、誠実な宗教的信念を不当に貶めることなく、自由市場において商品やサービスを求めるゲイの人々がその尊厳が損なわれるような目に遭ったりすることなく、寛容をもって解決されなければならないという認識の上に置かれている」(判決文より)
要は、最高裁は、今回はフィリップ氏のケースについてのみ判断しているのであり、「信教の自由vs同性愛者の権利」という命題に関しては判断を先送りにしているということ、そして、今回の判決が、フィリップス氏と同じことをしてもよい(信教を理由に同性愛者へのサービス提供を拒んでよい)というお墨付きを出しているわけではないということです。「ゲイの人々の尊厳が損なわれるようなことがあってはならない」と明記されていることも重要です。
法廷でゲイカップルの代理人を務めたアメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union, ACLU)は、「最高裁の判決は、憲法が差別する権利を与えるというものではなかった」「われわれは一国家として、公共に開かれたビジネスに人を差別する権利があるという考えをすでに拒否している」と述べました。
ACLUのLGBT&HIVプロジェクトの代表を務めるジェームズ・エセックス氏は、「判決文を読んだところ、裁判所が長きにわたり人権保護に尽力してきたこと、そして各州には、LGBTを含むすべてのアメリカ国民を守る力があるという事実を再確認できる判決だと思う」と語りました。
原告のチャーリー・クレイグ氏は4日夜、今後も差別と闘い続けるとの声明を発表しました。コロラド州議会議事堂で行われた集会で、彼は支援者に対し、「『当店は、あなたのような人にサービスを提供しない』などと侮辱され、困惑し、辱められるようなことが、誰の身にもあってはならないと思い」、パートナーと共に訴訟を起こしたのです、と語りました。
拒否されたのが同性愛者でなく女性や黒人や障害者だったとしても、同じようにフィリップス氏の宗教的信条が尊重される判決が下っただろうか?という意見も見られます。
同性婚へのサービス提供拒否に関する裁判は、今回の件以外にもたくさんあって、現在、係争中です。花屋、映像プロデューサー、グラフィックアーティストらが、宗教的な立場から同性婚に反対し、同性カップルの結婚式への協力を拒否しているそうです。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は今回の最高裁判決について「今後、同種裁判で異なる判断が出る可能性を残した」と指摘しており、必ずしもこれらの裁判で同様の判断が下されるわけではないとしています。
トランプ大統領は昨年、最高裁判事の1人に保守派のゴーサッチ判事を指名し、最高裁判事9人のうち5人が保守派となっており(以前は保守派とリベラル派が4対4で、ケネディ判事が中道でしたが、そのバランスが崩れました)、そのことが今回の判決にも影響を及ぼしていると見られています。トランプ大統領の政策とあいまって、LGBTに対する逆風が危惧されていました。
参考記事:
同性婚のケーキ作り拒否 米最高裁が「差別」判決を破棄(朝日新聞)
同性カップルの婚礼ケーキ作り拒否、米最高裁が店主寄りの見解(ウォール・ストリート・ジャーナル)
同性婚のウェディングケーキ、拒否したケーキ店が勝訴。米最高裁の判断とは(ハフィントンポスト)
同性婚カップルへのケーキ販売拒否 米最高裁が店側を支持(NewSphere)
同性婚ケーキ作り拒否 最高裁でケーキ職人が逆転勝訴、なぜ?(クリスチャントゥデイ)