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台湾がアジアで初めて同性婚を承認、憲法裁判所が「認めないのは違憲」と判断

 2017年5月24日、台湾の大法官会議(憲法裁判所)が、同性婚を認めていない現在の民法の規定は憲法に違反しているという判断を示し、同性婚の法制化を2年以内に行うよう言い渡しました(さらに、法改正が2年以内に終わらない場合、証人がいれば婚姻の登記ができるともしました)。台湾メディアによると、アジアで初めて同性婚の合法化が実現する見通しとなりました。

 台湾の立法院(国会)では昨年末から同性婚をめぐる審議が行われています(現在はストップしています)が、それとは別に、2013年、とあるゲイカップルが、台北市で結婚届を提出して受理されなかったことを受け、同性どうしの結婚を認めていない現在の民法が法の下の平等などを保障した憲法に違反するのではないか?として憲法裁判所の判断を求める申し立てを行っていました。憲法裁判所は今年3月、解釈の公表を決定しました。同性婚合法化が重要局面を迎えたタイミングを見計らった格好です。
 大法官会議は台湾唯一の違憲審査機関で、主に法曹界出身で総統が指名する大法官(裁判官)15人で構成されています。決定には3分の2(10人)以上の同意が必要でしたが、12人が賛成しました。
 
 EMA日本によると、判決の要旨は以下の通りです。
「同性婚を認めたとしても、異性婚を前提としてきた社会秩序が変わってしまうわけではない。むしろ、婚姻の自由を同性カップルにも広げることで、社会の安定が強化されるであろう。同性愛者であれ異性愛者であれ、愛する人と肉体的にも精神的にも一緒にいたいと思う気持ちやその必要性は変わらない。婚姻は人間の尊厳を擁護し、健全な個性を育むために重要である。
 我が国(台湾)においては、同性愛者は社会から否定されてきた。それゆえ、彼らは社会から隔離され、孤立し、事実上および法律上の差別に苦しめられてきた。また、社会の偏見により、彼らが民主的な方法で法的な不利益を改めることも困難であった。
 民法の婚姻規定は、子どもを産むことを前提条件とはしていない。婚姻した一方が子どもを作れないからといって婚姻が無効になることもなく、離婚の理由にもならない。子どもを産むことが婚姻の基本的な要素であるとは全く言えない。ゆえに、自然な妊娠によって子どもを授かることができない同性カップルについても、そのことを理由に婚姻を認めないことは、合理性を欠く。
 同性婚が認められても、同性カップルは異性カップルと同様、婚姻中も離婚後も権利と義務を負うのであり、社会の基本的倫理は不変である。社会的倫理に影響することを理由に同性婚を認めない、つまり同性カップルの人たちに異なる扱いを認めることは、全く合理性を欠き、憲法の定める平等の原理に反するものである。」

 台湾法に詳しい明治大学の鈴木賢教授は「これはすさまじい。とても大胆な憲法解釈でした。もっと曖昧な形で、ボールを立法府にパスする可能性もあると思っていましたが……驚きました」と語っています(詳しくはこちら
「明快です。このような判断には、2015年に出たアメリカの最高裁判例の影響が及んでいるとみるべきかもしれません。台湾の司法院には15人の大法官がいますが、留学経験者が多く、海外の動向にも敏感ですから」
「さらに、普通の事件も裁く日本の最高裁判所と違って、台湾の司法院大法官は憲法解釈だけをするので、学者の割合が多い。いまは実務家8人、学者7人で、大胆な判断もしやすくなっています」
「同性婚に反対の声は、まだ台湾でもあります。しかし、同性婚を求める運動は何十年も続いていて、立法府に法案が出始めてからでも10年以上が経っています。議論の蓄積は、相当なものになっている。社会的には、大方の合意が得られているという判断を、大法官はしたのでしょう」

 台湾でゲイ&レズビアンの運動が始まったのは日本よりも遅く、パレードの初開催は2003年でしたが、同年には早くも内閣が同性婚法案を作成し、大変な話題になりました。その背景には「人権立国」施策があると、鈴木賢教授は語ります。「国連追放以後の国際社会でのプレゼンスを回復するうえでも、中国の抑圧体制へのアンチを示すうえでも、民進党・国民党を問わず国際標準であるLGBTフレンドリーの姿勢を見せるようになった」(詳しくはこちら)。パレードも台北市政府や馬英九元総統(国民党)の後押しを受けて急速に成長し、2010年代には数万人規模になりました。2015年の世論調査では、結婚の平等(同性婚)を支持すると回答した人が約70%に上るなど、欧米諸国以上の支持率を記録しました。
 蔡英文総統は昨年5月の就任前から同性婚支持を表明しており、昨年末には国会の司法制度委員会が与野党の議員が提案した複数の民法改正案(結婚に関する民法の条文から男女の区別を消去することで合法化を実現する「民法改正」と、同性パートナーに結婚と同等の権利を保障する「特別法」を作る2つの案)を修正して通過させ、各党代表者協議に対応を委ねました。しかし、同性婚法案をめぐって賛成派、反対派の双方が大規模なデモを行うなど、国内での対立が深刻化したこともあり、蔡総統は法案の審議を止めていました。

 鈴木教授は「現在の台湾は、同性婚を認めようと主張した蔡英文総統が当選し、彼女が主席を務める民進党が完全与党になり、大法官のトップも民進党の意を酌んだ人が任命されているという状況です。蔡総統は選挙中、同性婚を支持すると言っておきながら、当選すると煮え切らない対応をしていました。与党内や選挙民にも反対の声がありますし、どういう形で法律を作るのかについても意見対立があるので、強いリーダーシップを発揮しないでいました」と語っています。
 今回の司法判断は、そのような状況で踏み出された、ある意味、とどめの一歩でした。
「台湾らしい判断だった」「まだ強い反対論が渦巻いている中で、司法という立場で、この問題に決着を付けてしまったのは、大胆でした。台湾らしいといえば、台湾らしいですが……」「台湾の司法院大法官は戦後、古い法律を違憲にすることで廃止させ、それによって民主化推進の一翼を担ってきました。そうした長い歴史があるのです」
 
 国会周辺には、小雨の降るなか色とりどりの傘をさした同性婚支持者ら数百人が集まり、憲法判断の行方を見守っていましたが、今回の画期的な判決を受けて、互いに抱き合ったり、涙を流しながら喜びました。
 申し立てを行ったゲイの方は「躍り上がるぐらい、とてもうれしい気持ちです。同性婚の法制化が実現すれば、社会を、より民主的で平等、自由なものにすることができます」と喜びを語っていました。
「婚姻平権(結婚の平等)」を求めて活動してきた団体は「憲法とわれわれの運動にとっての一里塚だ」「アジアだけでなく世界にとり歴史的な一瞬だ」と歓迎しました。
 
 今回の憲法判断を受けて、国会の議長は「与野党の議員が、大法官会議の判断を尊重し、広く各界の意見を取り入れ、関連の法律の改正、あるいは制定を完成させるよう願っている」という談話を発表しました。
 与党、民進党の国会議員は「審議に2年はかけない」と早期成立に意欲を示したそうです。
 また、台湾の総統府は「蔡英文総統は、自分と異なる意見の人と理解と包容、尊重の態度で向き合うよう、社会全体に呼びかける。そして、意見の対立を解消する成熟した民主主義の仕組みがあると信じている」とする声明を発表し、同性婚の法制化をめぐって賛否が分かれている状況を議論を尽くして乗り越え、法制化を実現するよう呼びかけました。
 一方、総統府の呉釗燮秘書長(官房長官)は、行政院(内閣)に新たな法案を提出するよう要請したと発表しました。今後、議員立法との整合性が論争になる可能性もあるそうです。
 
 こうして、近いうちにアジア初の結婚の平等(同性婚の権利)が台湾で認められる公算が大きくなりました。
 アジアではこれまでずっと、同性どうしで結婚できる国・地域が1つもありませんでしたが、ついに、他の大陸(大州)と肩を並べることになりそうです。
 
 

参考記事:
台湾 同性婚認めない民法の規定は憲法違反(NHK)
台湾、同性婚を合法化へ アジア初 憲法法廷が判断(日経新聞)
台湾、同性婚禁止は「違憲」 アジア初の容認に向け蔡政権後押し(産経新聞)
同性婚を容認、アジア初=現行民法「違憲」と判断―台湾(Yahoo! 時事通信)
ほか

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