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大阪市が全国で初めて同性カップルを里親に認定

 さまざまな事情で実の親元で暮らせない子どもを一定期間、預かり育てる「養育里親」に、大阪市が市内に住むゲイカップルを認定したことがわかりました。厚労省によると、同性カップルが養育里親に認定されたのは全国で初めてではないかということです。(過去に、関東地方のレズビアンカップルがそれぞれ個人で認定された後、一緒に子どもを預かったケースはあるそうです)
 
 大阪市によると、昨年9月、市内に住む30代と40代のゲイカップルがこども相談センター(児童相談所)に「養育里親になりたい」と申し込みました。カップルは面接や制度の仕組み、心構えなどを理解する1週間程度の研修を受けた後、有識者らの社会福祉審議会で審査が行われ、12月、養育里親に認定されました。認定を受けたカップルは子どもとのマッチングを経て、今年2月から10代の男の子1人を預かることになり、すでに育てているそうです。 

 大阪市長の吉村洋文氏は「LGBTは、単なる少数者。活躍の場が制限されるのは社会的にもったいない。色々考え方はあろうが、他の自治体にも広がればいい」とTwitterでコメント、また、報道陣に対し、「里親制度は子どもが里親の愛情を受けて育つための制度で、里親が性的少数者かどうかは関係ないという理解を広めていきたい」と語りました。
 大阪市の担当者は「養育里親になる要件に、性別に関する規定は大阪市にはなく、今回のケースは『里親の認定要件を満たしていて、里親として適切である』という審議会の答申を受けて認定を決めた」「愛情があり心身が健康で経済的に安定していれば、どのような家族形態でも里親になることは可能。実習で見た子どもとの関わり方も問題なかった」とコメントしています。
 大阪市でゲイカップルの里親が認められた背景には、LGBT支援宣言を行った大阪市淀川区の働きかけがありました。約2年半前、榊区長(当時)が同性カップルが里親になれないという課題に着目し、こども相談センターなどに働きかけ、意見交換を重ねていたということです。

 めでたく養育里親となったゲイカップルは、「個人ではなく一世帯として里親となったことがうれしい。(男の子が)学校や友達のことを話してくれると、安心して暮らせているのかなと思う」「里親制度というのは『子どもを育む役割を引き受ける』ものです。『子どもがほしい』大人のための制度ではなく、子どものために『育つ家庭』を用意する、子ども中心の制度です。多くの大人が、家庭を必要とする子どものために、『育てる役割』の担い手になることに関心を持ってもらえたらと思います」と語っています(素晴らしいコメントですね!)

<里親制度>
 里親制度は児童福祉法で定められた制度で、親の死亡や重病、虐待・育児放棄などさまざまな事情で、実の親のもとでの養育が困難な子どもを里親が育てるもの。虐待による影響や心身に障害があり、特に配慮が必要な子どもを預かる「専門里親」、養子縁組を前提とした「養子縁組里親」、親に代わって祖父母など血縁者が育てる「親族里親」、それ以外の一般的な「養育里親」の4種類があります。養育里親は、実の親が引き取る見込みのある子どもを実親の元へ家庭復帰できるまで、あるいは18才まで家庭内で一定期間養育する里親です。
国の基準(厚労省のガイドライン)に基づき、都道府県知事や政令指定都市の市長らが認定し、子どもの生活費や教育費を支給することになっています。
厚労省は里親委託に関するガイドラインを2011年に策定しました。このガイドラインでは、里親の認定を行う際の要件として、子どもを育てることへの熱意や豊かな愛情、それに経済的に困窮していないことなどを求めていて、同性のカップルを禁じてはいません。 
養育里親になるには、自治体が行う研修を受けたうえで、収入や住宅環境などの調査を受け、さらに都道府県や政令指定都市の審議会で認定を受けることが必要です。

 厚労省によると、国内では現在、約4万5000人の子どもが社会的養護のもとで生活しています。大半は児童養護施設などで暮らし、里親に預けられているのは1割強にあたる約5000人にとどまっています(昨年3月時点で合わせて4973人)。一昨年3月の時点で、子どもを預かっている里親は3704世帯(夫婦の世帯が87%の3216、ひとり親の世帯が13%で488)でした。アメリカではそうした子どもたちの約9割が養親に引き取られるのに対し、日本では約1割という現状で、同性カップルの里親を望む声も以前から一部でありました。
 厚労省は「親に代わって社会が育てなければならない子どもは増えている。要件を満たしていれば、同性カップルなどの性的指向は関係なく、里親として認めていくべきだ」としています。
 しかし、制度を運用する自治体が追加の条件を定めることもできるため、実際の対応は地域ごとに差があるのが実情です。
 例えば、大阪市の場合は、事前の研修や、児童相談所の面接を受け、専門家で作る審議会で認められる必要がありますが、性別については制限していません。
 他方、東京都では、里親になるには原則として異性の「配偶者」がいることを条件としています。配偶者がいなくても、親などのサポートがあれば認められることもありますが、同性カップルは認めていないということです。東京都によると、多様性を認める必要はあるものの、子育ての場とすることについては慎重な意見もあるということです。
 
 児童福祉が専門で、里親の問題に詳しい関西大学人間健康学部の山縣文治教授は、「子どもたちが育つ場として、新しい選択肢ができた点は評価できる。一方で、日本では同性のカップルは、まだ一般的ではないため、子どもが成長するなかで混乱し、苦しむ可能性もある。子どもが不利益を被ることがないよう、行政や地域など社会的な支援や理解が必要だ」と語っています。
 公益財団法人「全国里親会」の担当者は「子ども本人の意向などを慎重に確認して市が判断した結果だろう。同性カップルであるかどうかにかかわらず、子どもの未来のために何が利益になるかが最も重要だ」と語っています。
 LGBTと里親制度について考える一般社団法人レインボーフォスターケア(さいたま市)代表理事の藤めぐみさんは「市が同性カップルを世帯として受け止めたことに意義がある」とコメント。藤さんによると、欧米では同性カップルが里親の候補として認識されている(積極的に募集している自治体もある)一方で、日本では同性カップルが自治体に相談しても職員の思い込みや偏見で断られるケースがあったといいます。藤さんは「多様な子どもがいるなかで、里親の選択肢も多様であっていい。すでに子育てをしている同性カップル家族の姿を通して、理解を深めてほしい」と語っています。
 LGBT総合研究所のの森永貴彦所長は、「LGBTなど性的マイノリティへの認知が少しずつ進みだし、「個人」の多様性だけではなく、「家族」のカタチの多様性が求められてきています。すでに欧米諸国では、同性パートナー間の育児を描いた広告もマスメディアに露出しています。社会の多様性の享受が進めば、必然的にこうしたケースも増え、自治体、国として再考すべき時が来ていると言えます。大きな責任のある育児に取り組む当事者の勇気を讃え、周囲がサポートすることで、国内の理想的なモデルケースになることを願います」とコメントしています。

 同性カップルが子どもを引き取って育てることに関しては、海外でも反対論がありましたが、2014年には「同性カップルの子どもの方が男女夫婦の子どもよりも健康で幸福だ」とするメルボルン大学の研究結果が発表されています。「健康」と「家族の絆」を測る項目で、同性カップルの子どもは全体を平均で6%上回るスコアを記録したそうです。
 海外で同性婚が認められた国の多くで、同性カップルの養子縁組も認められており、アメリカではレズビアンカップルの3組のうち1組が、ゲイカップルの5分の1が、オランダでは同性カップルの9%が、デンマークでも6分の1の同性婚カップルが子どもを育てています。また、英国のイングランドで同性カップルに引き取られた養子の数は、2014年に340人に上っており、同性カップルが里親家庭・養子縁組家庭の重要な受け皿になっています。日本でも同様に大きな受け皿となっていく可能性もあります。
 
 4月7日には、大阪市長に続き、塩崎厚労相が記者会見に臨み、「同性カップルでも男女のカップルでも、子どもが安定した家庭でしっかり育つことが大事で、それが達成されれば我々としてはありがたい」と述べ、同性カップルを里親として認める姿勢を示しました。 
 日本でもようやく、同性カップルが公に認められて子育てできる時代になったのです。


参考記事:
同性カップルを「養育里親」に認定 大阪市(NHK)ほか

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