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性別適合手術について厚労省が来年度から保険を適用する方向で検討を始めました
厚生労働省は11月28日、性同一性障害(GID)の方を対象にした性別適合手術について、来年度から新たに公的医療保険の適用対象とする方向で検討に入ることを明らかにしました。29日の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)で議論してもらうよう提案するとのことです。
医療機関で性同一性障害の診断を受けた方は、精神療法を受けたり、性別違和を解消する(自認する性に身体を近づける)ために、ホルモン療法のほか、豊胸/除胸手術を受けたり、性線や外性器に関する性別適合手術を受けたりしてきました。しかしこれまで、精神療法以外は保険が適用されなかったため、100万円以上かかる高額な治療費が壁となり、手術を受けることができずにいた方も多かったというのが実情です。
2004年に施行された性同一性障害特例法では、戸籍の性別変更の条件として「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」ならびに「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」(すなわち性別適合手術を受けること)が課されています。
当事者からは、性別適合手術が戸籍の性別変更の条件となっているのに保険が適用されないのはおかしいのではないかという声も上がっていました。
比較的費用が安い海外に渡航して手術を受ける方も多く、当事者へのアンケートでは国内と国外での手術件数がほぼ同数になっています。
厚労省によると、これまでに性同一性障害で国内の医療機関を受診した方は、のべ約2万2000人に上りますが、実際に戸籍の性別を変更できた方は約7000人にとどまります(2016年は約900人でした)。近年、性的マイノリティへの社会的認知が広がっていることも背景にあり、厚労省は、保険適用の可否について議論する必要性が高まっていると判断しました。
保険が適用されれば、最大3割の自己負担で手術を受けることができるようになります。
(ドイツやフランス、オーストラリアなどではすでに公的保険による給付が行われてきたほか、欧米の企業の中には、福利厚生の一環として手術費用を負担するところもあります)
厚労省は、保険適用の範囲については、性同一性障害特例法の性別変更の条件を踏まえ、ホルモン療法は対象から外す方向で検討するそうです。
なお、性同一性障害特例法では、上記の条件のほか、「二十歳以上であること」「現に婚姻をしていないこと」「現に未成年の子がいないこと」という条件も課されています。
世界的に見ると、2012年、アルゼンチンで性別適合手術なしにID上の性別変更ができるようになったのを皮切りに、欧米のいろんな国がこれに倣うようになってきています。「子なし要件」があるのは日本だけです。
【追記】
翌29日の中央社会保険医療協議会で提案され、大筋で了承されたため、厚労省は来年度から公的医療保険の適用対象とすることを決定しました。
過去には、100万円以上かかる高額な手術費を払うことができず、自死を選ぶ方もいたそうで、保険適用は性同一性障害(GID)の方にとっての悲願となっていました。性同一性障害特例法が2004年に施行されて以来の、重要な制度改革と言えます。
20年近く保険適用を訴えてきた「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」前代表の山本蘭さんは「活動の成果がようやく実る」と喜びを語っています。2015年にGID学会による認定医制度はできましたが、安全性はなお課題で、手術のできる医療機関の地域格差もあるそうです。山本さんは「保険適用が医療の質の向上と医療機関の増加につながれば」と期待します。
(12/1各紙報道より)
参考記事:
性同一性障害の人の「適合手術」、保険適用を議論へ(Yahoo!ニュース/朝日新聞)
性別適合手術 保険適用へ 認知広がり、厚労省検討始める(毎日新聞)
性別適合手術に保険適用へ 来年度、性同一性障害 厚労省検討(産経新聞)
性適合手術 来年度から保険適用へ 従来は100万円以上も(東京新聞)