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性同一性障害であることを職場に公表するよう強要されたとして、愛知ヤクルト社員が提訴
性同一性障害であることを職場で公表するよう強いられたなどとして、ヤクルトの子会社「愛知ヤクルト工場」(愛知県日進市)の40代会社員が6月28日、同社に対し330万円の損害賠償を求める訴えを名古屋地裁に起こしました。
この会社員は、戸籍上は男性ですが、2014年1月に性同一性障害の診断を受けた後、女性名に変更し、同年5月に保険証や年金手帳の書き換え手続きのため、上司に改名を報告しました。職場では男性名の使用を希望しましたが、会社側は聞き入れず、掲示物の名前などを女性名に書き換えました。会社側はさらに男性従業員と別の更衣室を使えるような配慮や男女双方が利用する来客用トイレの使用を認める代わりに、性同一性障害の公表を要求。同年6月、会社員は朝礼で全従業員に性同一性障害であることを公表させられ、不眠や抑うつ状態になったといいます。昨年1月にはうつ病と診断され、3月に半月ほど休職。復職すると窓や空調のない部屋で一人で作業するよう命じられたといい、会社員は「『追い出し部屋』で事実上の退職勧奨だ」と訴えています。
会社員は28日に記者会見し「40年以上隠してきたことを、突然、自分の口で説明させられた」と話しました。
愛知ヤクルト工場は、「職場での氏名の変更は本人の申し出によるもので、通称名を許可しないと拒否した事実はない。職場での公表は特別な配慮をする以上、情報を開示して他の従業員の理解を得るのが職場全体の協力体制につながるという判断から打診した。強制ではなく、本人は同意し、自らの意思と言葉で公表した。昨年3月の復帰以降の職場環境も劣悪ではない。人格権の侵害や安全配慮義務を欠いた事実はないと考えている」としています。
トランスジェンダーの職場環境をめぐる訴訟は、過去にもいくつか例があります。
まず、2006年10月、性同一性障害を理由に解雇されたとして、社会福祉法人「大阪自彊館」(大阪市西成区)の契約職員だった方(50)が、同法人に解雇無効の確認と慰謝料200万円などを求める訴訟を大阪地裁に起こしました。訴状によると、元職員は性同一性障害者であることを明らかにしたうえで、野宿者に対する巡回相談員として採用されましたが、化粧や女子トイレの使用を注意されたほか、上司や同僚から「野宿者から蔑視される」「一緒に仕事をしたくない」などと言われ、2006年3月、同法人側から理由を示されないまま口頭で契約を更新しないと通告され、性同一性障害を理由に解雇したのは違法だと訴え出たものです。この訴訟は、2008年に大阪地裁で和解が成立しました。和解条項では、法人側が解決金として180万円を支払い、性同一性障害をめぐり元職員が不快な思いをしたことに対して「遺憾の意」を表すこととされました。原告の代理人は「法人側が障害に対する配慮不足を認めており、事実上の勝訴」としています。
それから昨年11月、戸籍上は男性で女性として勤務している経済産業省職員が女性トイレの使用など処遇改善を求め、国を訴えました(係争中です)。職員は男性として入省後、1998年ごろ性同一性障害の診断を受け、女性ホルモンの投与を開始、2009年に女性としての処遇を申し出て、2010年から女性としての勤務が認められました。2011年には女性名に改名し、職場の女子会にも呼ばれるようになりました。しかし、経産省は、職員に女性の姿で勤務することや女性用の休憩室の利用は認めたが、トイレは障害者用か、職場から2階以上離れた女性用を使うよう指示。さらに、「性別適合手術を受けて戸籍上の性を変えなければ異動できない。仮に変更せずに異動する場合、新しい職場の同僚に戸籍上は男性だと説明しない限り女性トイレの使用を認めない」としていました。日本で性別変更するには、卵巣や子宮、睾丸を摘出するといった性別適合手術が必要ですが、職員は皮膚疾患などで手術が受けられず、人事院に不服を申し立てていましたが、2015年5月に退けられていました。
参考: 【性同一性障害「公表を強要」 愛知ヤクルト社員が提訴】
2016.6.29 日本経済新聞電子版